第20話 オーランス

「久しぶりの我が家。埃がたまってるから片付けないとね」


 レグルス様もいたけど、プラナとウルドを出してレグルスエイドに戻ってきた。レッグスが使役してる事になっているので僕の従魔だと疑うこともない。流石に赤ん坊が使役してるなんて思う人はいないよな。

 エミが早速声をあげてお掃除に励む。

 今回は人数も多かったので馬車を引っ張ってもらったからそこそこ時間がかかった。それでも二日程だ。圧倒的に馬車より早い。


「では日程が決まり次第連絡に来る……。うぷっ!」


 レグルス様は馬車酔いをしてしまったみたい。声をあげると胃の中のものをすべて吐きそうになって口で抑えてる。僕らは全員無事、鍛え方が違うんだよね。


「さあさあ、レッグスも掃除掃除」


「はは、そんなに急かさなくても」


 エミの声に笑いながら答える。天井の埃を落とすと床やテーブルを水ぶきしていく。床は僕が担当した。ハイハイはそのまま水ぶきの姿勢だからね。


「ほんと、出来過ぎな息子だよ」


 床掃除する様子を見ている二人。レッグスが呟くとエミも笑いながら頷く。こんな赤ん坊早々いないもんね。感心してしまうのも仕方ない。

 家の掃除を終えて一日が経つ。するとレグルス様が報告にやってくる。


「日程が決まった。一週間後にオーランスの帝都で行われる。レグルスエイドから5日の距離にある、なので明日には旅立つこととなる」


「わかりました。レグルス様は来られないんですよね?」


「ああ、申し訳ないがこの町の復興が忙しくてな。それに罠の可能性も考慮せんと……。すまない、君の家族を危険にさらしてしまうことになってしまって」


 レグルス様の報告を聞いてレッグスが質問すると頭を下げて答えてくれる。


「命を狙われたら貴族であることを話すといい。全面戦争の火種になる、そう言えばある程度のものならば、手を止めるはずだ」


「分かりました……。そう言えば、俺準子爵になったんでしたね」


 準子爵とは言え貴族。レグルス様の声で実感していくレッグス。


「まあ、ブラックゴーレムを無傷で倒した英雄をどうにかしようなどするものは居ないと思うがな」


 呆れたように声をあげるレグルス様。それだけ凄い事をしてしまったんだよな~、僕が……。


「そうだ。貴族の服を用意した。オーランスに着いた時に着るといい。持ってきてくれ」


 レグルス様はそう言うと執事のおじいさんとメイドさんが数人入ってくる。僕ら三人の煌びやかな服を用意してくれたみたい。


「それは助かります。服なんて冒険者の服といつもの服しか持っていなくて」


「冒険者? やはりレッグス殿は冒険者の経験があったのか。どうりで強いわけだ」


 レッグスがお礼を言うと冒険者という言葉に反応を示すレグルス様。レッグスが冒険者をやっていたのは初耳だな。ってことはエミもそうなのかな?


「エミも元冒険者ですよ。魔法使いとして一緒に依頼をこなしていました」


「おお、そうであったか。それは頼もしい。これならオーランスに行っても心配なさそうですな」


 やっぱり、エミも冒険者だったんだな。そんなようなことを言っていたような気がするけど、忘れていた。


「あまり思い出したくないけどね……」


 エミはそう言って俯く。冒険者をしていた時のことはあまり思い出したくないみたいだな。


「ガハハ、それならば思い出さなければいい。嫌なことは忘れる。それが長生きのコツですからな。ではオーランスの件頼みましたぞ」


 エミの声に笑うとニッコリと微笑んで家を後にするレグルス様。執事さんとメイドさんもお辞儀をして彼に続いて去っていく。


「嫌なことは忘れるか……確かにそうだ。流石はレグルス様だな」


「そうね。それでも思い出しちゃうのが嫌な思い出なんだけど……」


 レッグスが感心して呟くとエミがため息をついて話す。

 確かにそうだ、嫌な思い出って頭にこびりつくんだよね。ふとした時に思い出して嫌な気持ちにさせる。


「何かあったらすぐに逃げてくるのだぞ!」


「何かあったら困りますよレグルス様」


 日程が決まって次の日。馬車に乗り込む僕たちを見送ってくれるレグルス様。何かあってからじゃ遅いよね。そうならないように僕が二人を守る。


「エミ……今からでもレグルスエイドに」


「嫌よ! 二人は危険に飛び込むって言うのに私は安全なところにいるなんて! 二人に何かあったら私も死んでやるんだからね! あなたこそそうならないように気をつけてよ!」


「はは、ほんとエミはいい女だな」


 馬車に乗り込んで走り出すとレッグスがエミに問いかける。遮るようにエミが答えると唇を重ねる。ほんと熱々な夫婦だな~。


「さて、そろそろ。アキラ」


「アイ!」


 レグルスエイドから出て、街道をしばらく進む。人気がなくなるとレッグスが声をあげて僕が答える。そして、プラナとウルドを召喚する。


「はぁ~、マスター。我らは運び屋ではないのだぞ……」


「私は嬉しい。マスターの役に立てるから」


「ふんっ。岩野郎には分からんだろうな。誇り高き狼の血が嫌だというんだよ!」


 二人を召喚するとウルドが愚痴をこぼす。プラナは嫌ともいわずに馬を持ち上げて運んでくれる。プラナはウルドに悪口を言われても意に介していない。強い子だな~。

 馬車をひっぱるのはウルドの仕事。馬車はスピードを上げて街道を突き進んでいく。いくつかの馬車を抜き去って土煙をあげる。目立つけれど、馬車の紋章はレグルス様の物だ。貴族である人の馬車ならそういうものだと理解してくれるだろう。

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