第17話 焦り


「なに!? レグルスエイドがブラックゴーレムを倒したというのか!? それも簡単に?」


 アキラ達が村に戻りパーティーを平井居ている頃。レグルスエイドの戦いを見学していた軍隊が帰還を果たした。

 軍隊の指揮官である、【第一騎士団団長バルトロ】は包み隠さず報告する。

 報告を聞いたオーランス王、【ネタフ】は驚き戸惑う。老いた体を震わせて頭を抱えた。


「宮廷魔術師……グラフを呼べ!」


「はっ!」


 玉座の間に響くネタフの声。兵士は驚きながらも【宮廷魔術師ネタフ】を呼びに走る。しばらく待っているとネタフを連れて兵士が戻ってくる。


「報告は聞いたか?」


「は、はい……」


 ネタフはワインを口にして酔い始めていた。彼はワインを持ち、玉座から立ち上がるとグラフに近づいていく。


「跪け」


「は?」


「跪け!」


 ネタフは急な命令に反応できないグラフに声を荒らげる。グラフは声に驚いて跪くとワインがかけられる。

 頭から赤いワインをかけられたグラフはまるで血に染まったかのように赤くなる。


「ははは、今回の敗戦国の将軍にピッタリな色だろ。まるで頭を勝ち割られたようだ」


 ネタフはワインに染まるグラフを見て陽気に笑う。しかし、すぐにその笑みは消えてグラフの頭を踏みつける。


「今までのゴーレムの魔石にいくらかけていると思う? ブラックゴーレムの生産にいくらかけた? その責任は誰にある?」


 ネタフはそう言ってワイングラスをグラフのすぐ横の地面に投げつける。破片がグラフの頬を傷つけ、ワインが傷に染みる。

 その痛みに耐えながらグラフは口を開いた。


「お言葉ですがネタフ様。私は誠心誠意オーランスのために」


「それはみな一緒だよグラフ。成果が伴わなければ意味がない。大白銀貨10枚の予算を投じたんだぞ? 儂の新居が作れるほどの額だ! その分の成果があったか? 儂の記憶が確かなら~……ない! 0だ!」


 グラフの声を遮って声を荒らげるネタフ。激情的に怒りをあらわにするネタフ。バルトロは呆れ、グラフは身の危険を感じ始める。


「二度とこのような」


「二度も三度もあってたまるか! お前の命を使ってでもレグルスエイドを手に入れよ! それができないならお前の命はない! わかったか!」


 グラフの声を再度遮るネタフ。ネタフは話しながらグラフの胸ぐらをつかんで突き放す。

 話は終わり、バルトロとグラフは玉座の間を追い出される。とばっちりがなかったバルトロは気落ちするグラフを慰めようと肩に手を置く。


「まあ、生きてりゃ何とかなる。別の国に渡ることだって」


「下手な慰めはよせ。私には家族がいる。出来る家族がな。人の心配をしていないで鍛錬でもしてろ。ブラックゴーレムを簡単に倒す兵士を倒す方法とかな」


 肩の手を払って背中を向けるグラフ。バルトロは大きなため息をついて彼を見送る。


「私の計画は完ぺきだった……。ブラックゴーレムを無傷で倒せるものなど、そうそういないのだから。ならば誰のせいだ? ……そう、あの出来損ないのせいだ!」


 城を出て離れの塔に向かうグラフ。声を荒らげ、独り言を話しながら塔の扉を開く。階段を上る音にも怒りが見える。まるで自分のせいではないというかのように。


「フィール!」


「お、お父様?」


 塔を登りきると扉を開くグラフ。力強く開いた扉が音を出すと彼は声を荒らげて名前を叫ぶ。

 【フィール】と呼ばれた白髪の少女はきょとんとした表情で座っていた椅子から立ち上がる。


「お父様と呼ぶなといっただろ? なぜ言われた通りにしない!」


「痛い! やめてお父様!」


 長い髪を掴まれて悲鳴を上げるフィール。髪を掴んだまま引っ張るグラフの目は狂気に染まっている。


「宮廷魔術師の私の娘だというのに適正魔法がない。そんなお前を育ててやっているというのに」


「ど、どうしたのお父様!」


「お父様と呼ぶな! グラフ様と呼べと言っているだろ!」


 グラフは髪を話すと椅子に座り込んで頭を抱える。焦燥しきった彼にフィールは優しく手を握ってあげている。しかし、そんな彼女の優しさも今のグラフには無意味。

 手を払うと平手打ちを彼女の頬に当てる。


「お前はちゃんと召喚をしたのか? ブラックゴーレムは本当にブラックゴーレムだったのか?」


「召喚した! 言われた通り召喚したわ」


「言われた通りではない! お前が失敗したのだ!」


 フィールの返答もお構いなしに彼女のせいにするグラフ。もう大人としての体裁もなくなっている。


「お前など、生まれてこなければよかったのだ。いなければあのような計画も。召喚でしか輝かない能力などに頼ったから!」


「や、やめてお父様」


「呼ぶなと言っている!」


 狂気に満ちた瞳でフィールを睨みつけ、首を絞め始めるグラフ。フィールの声は届かない。ギリギリと首が閉まっていく。少女の命がなくなる、そう思われた時奇跡が起こる。


「やめて!」


 フィールの体が白く光り、障壁を作り出す。彼女を傷つけるものをすべて阻む結界。グラフは勢いよく壁にたたきつけられると気絶して静かになった。


「うっ…うぅ。お母さま、なんで私を生んだの」


 静かになった塔に少女の嘆きがこだまする。


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