『妬みの痛み』

第22話

「神田監督！　その指先のタコについて詳しく聞かせて貰っても良いですか？」

「あっ………　はいっ…………」

「それが、周りを不幸にする全ての根源に繋がっているかも知れないので！」

「うっ？！…………　実は僕…………　魔術師なのです…………」

「えっ！！！」

「僕も山田監督が、同じ魔術師だと気づいていましたよ」

「何の事？」

「僕には分かるのです！　だって神田家は江戸時代から代々受け継がれてきた魔術師一家ですから」

「まっ魔術師だなんて…………　わっ私は、ただ興味本位で…………　しかも、自己流でやっているだけですから…………」

「それにしては、魔術レベルが高いですね」

「何ですか？　その魔術レベルって？」

「魔術を執行する度に、経験値として上がって行く強さのバロメーターの様なものですよ」

「魔術界には、そんなものがあるのですね」

「ちなみに、僕の魔術レベルは師範代です」

「えっ！　段階は分からないけど、何か凄いと言う事だけは分かる！」

「それで、察しの良い山田監督には、もうバレましたね」

「やっぱり、そうだったのですね！」

「はい、魔術レベルを上げる為に、僕の映画に関わる人達に魔術を執行して来ました」

「師範代になる位だから、相当な人数でしょうね」

「でも、命を奪うまでの魔術は執行していませんよ」

「でも、病気になって亡くなった俳優がいたとか言っていましたよね」

「それは、僕ではありません！　たまたま僕の映画に関わっただけでしょう」

「こればっかりは、証拠がありませんからね」

「山田監督！　ひどい！」

「あっ、ごめんなさい」

「でも、とりあえず師範代までレベルが上がったので、一休みしようと思って休暇の期間を儲ける事にしたのです」

「休暇中の本当の理由は、そうだったのですね」

「山田監督！　休暇が終わったら一緒に魔術レベルを上げませんか？」

「いえ、私の魔術は、そう言うレベルを上げる目的ではないので」

「勿体無いですよ」

「何がですか？」

「もう少しで、準師範代になれると言うのに…………」

「ちなみに、質問なのですが神田監督は、白魔術も使えるのですか？」

「単刀直入に言うと使えません、神田家の魔術は黒魔術専門ですから」

「やっぱり使えないのですね…………」

「表があれば必ず裏があり、光があれば闇もある訳ですから、白魔術は黒魔術と相反するものなので、世の中の何処かに白魔術を専門とする魔術師はいるでしょうね」

「白魔術師が、何処にいるのか分かりますか？」

「何故ですか？」

「実は、白魔術の研究もしていまして…………」

「えっ！　使えるのですか！？」

「いいえ、まだまだ研究段階で何回か執行した事はありますが、効果の実績は無いのです」

「そうなのですね、しかし何故白魔術を使いたくなったのですか？」

「それは、自分でも良く分からないのですが、ただ単純に幸せを願いたい方と出会っただけなので」

「白魔術師って、そう言う心理なのかも知れませんね」

「ですね」

「やっぱり、黒魔術師とは正反対ですね」

「…………」

妬みと恨みのエネルギーを主体として黒魔術を執行してきたにも関わらず、幸せを願う白魔術師に興味を持つと言う事は、確実に愛子の中で何かが変わろうとしていた。