第19話

次に愛子の前に現れたのはーーーー。


「初めまして、大山信吾と言います」


「山田愛子です」


「知っていますよ! 今や飛ぶ鳥を落とす勢いのある監督さんですからね!」


「有り難うございます」


「実は私、俳優をしながら監督もする二刀流なんです」


「二刀流だなんて凄いですね」


「でも、どっちつかずでなかなかブレイク出来ず悩んでいるのです…………」


「そうなんですね」


「それで、ヒットを飛ばしている監督の次回作に、出演させて頂ければと思いやって来ました」


「私の作品に出演したければ、オーディションを受けて下さい!」


「やっぱり、そうですよね」


「私は、業界の一部で行われている悪しき風習の出来レースやコネを使ってのキャスティングが大嫌いですから」


「分かりました…………」


「ちなみに監督としては、どの様な作品を撮っていらっしゃるのですか?」


「特にジャンルには拘らず、その時に撮れるものを撮っている感じです」


「そうですか」


「もう自慢にはならないのですけど、昔に例の単館での観客動員数の記録を作ったのですが、山田監督に軽く塗り替えられましたし…………」


「あっはぁ…………」


「だから、今年は監督ではなく俳優の方を頑張ろうと思いまして」


「でも今、スマホで調べさせて貰ったのですが、俳優としての作品数は相当なものですね」


「いや実はこれ、仕掛けがありましてーーーー」


「どう言う仕掛けですか?」


「殆どが、インディーズの若手監督に寄る自主制作映画なのです」


「別に良いじゃないですか」


「それが良くないのですよ」


「どうしてですか?」


「結局、無名の監督に寄る無名の俳優が主演の低予算映画ですから、何の話題にもならず発展もしないので、よっぽどの若手監督の才能と運とタイミングに巡り合わない限り難しいのが現実です…………」


「単館などで劇場公開は、しているのですか?」


「それが無名づくしで知り合いしか集まらず、集客が見込めないと言う事と、敷居が高くて取り合ってもらえず仕舞いなのです」


「お金を払えば、上映してくれる所もありますよ」


「はい、知っていますが、自己満足と赤字になって終わるのが関の山ですから」


「では、せっかく撮った映画を何処で観る事が出来るのですか?」


「レンタル屋さんです」


「レンタル屋さん?」


「はい、Vシネマのような感じです」


「それでも、それなりの敷居があるのではないですか?」


「一応、昔の杵柄でレンタル屋さんに置いて貰うルートを持っていますので」


「そうなんですね」


「だから、若手監督にしてみれば自分の作品が、レンタル屋さんに並ぶので意外に喜びますよ」


「でしょうね」


「兎に角、メジャーな作品に出演しないと知名度も上がりませんから、監督の次回作のオーディションを受けますので宜しくお願いします!」


「良いですよ! 待ってますから」


「はいっ!」


イケメンでスラッとして技術もあり、人間性も悪くないのに売れないなんてと思う愛子であった。

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