第17話
そして、真田の“パニック障害”と言うフレーズに共感を持った愛子は、距離を縮め掘り返して聞いてみる事にした。
「話しは戻りますが、パニック障害になったと言っていましたよね?」
「はい」
「失礼ですが、パニック障害になった経緯を詳しく教えてくれませんか?」
「別に良いですよ」
「有り難うございます」
「いやぁ元々は、俳優をしていたと言っても殆ど仕事は無く、アルバイトに明け暮れる毎日を送っていました」
「そんなある日、突然仕事が同時期に三つも重なったのです」
「一つ目は映画で、二つ目はPVで、三つ目は短編映画でした」
「普段は、全然仕事が無いのに寄りによって三つも重なるのですから…………」
「そして、一つ目の映画では、主演女優の現在撮影中のドラマが、雨で中止が多い為に撮影が長引いてスケジュールが、なかなか組めないと言う事で、私のスケジュールも決まらない状態が続いたのです」
「二つ目のPVは、離れ小島での撮影の為に船に乗って向かわなければならず、連日海が荒れていて船が出せる状態ではないので海の状況待ち」
「三つ目の短編映画では、監督が足の骨を折るアクシデントの影響で脚本が遅れていて出来上がり次第と言う状態に…………」
「当然、先にスケジュールが決まったものから優先して調整したいのですが、無名のフリーの俳優である宿命と言いましょうか、こちら側で日程を決めて動かす事は出来ず、あくまでも向こう側の決めたスケジュールに合わせるしかないのです」
「しかも、一つ目の映画に関しては、あらかじめ監督から直接オファーを受けた時の役では、無くなりましたから舐められたものです」
「所謂、業界の闇の部分のシガラミが色々あったみたいで…………」
「結局、三つ共にスケジュールが組めず、その為にアルバイトの休みの調整も出来ず、借金返済にも影響が出て極度なストレスが溜まりイライラがMAXに到達してパニック障害を引き起こしたみたいなのです」
「金銭的に余裕があれば、その期間だけでもアルバイトを長く休めるのですが、借金返済が滞っていたのもありカツカツの生活を送っていた為、時間があれば少しでもアルバイトをするしかなかったのも原因なのかも知れないですが」
「そうだったのですね…………」
「まぁ、売れていない無名の俳優は、実家がお金持ちだったり、パトロンがいたり、彼女に食わして貰っていない限り、私と似たり寄ったりの生活をしている人達が多いと思いますよ」
「下積みとは言えど皆さんは、そこまでしても売れたいと言う事ですか?」
「でしょうね! ちなみに、私は違いますが」
「えっ? 何故ですか?」
「好きでやっていた訳ではないですから」
「と言いますと?」
「大体の人達は好きでやっているし、逆に好きではないと続けられないと思いますよ、私の場合は興味本位でやっていただけですから」
「確かに好きじゃないとね…………」
「若い時はまだ良いですが、年を重ねる度に親戚や親からは愛想をつかされ、同世代の友人からは変人扱いされ、体の無理も利かなくなり、どんどんみっともなくなって行きますから…………」
「それに、いい年こいて結婚も出来ず、親孝行も出来ず、潰しも利かず借金を背負いながら、カツカツの生活を送り、極めて確率の低い成功した自分の姿を思い浮かべた夢を見る中年ですから、たちが悪いですよ」
「この年齢まで来ると後には引けず、進むも地獄で戻るも地獄…………」
愛子は、真田の事が不憫でならなかった…………。
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