第10話
結局、愛子がキャスティング出来たのは、端役のほんの数人だけだった。
他にもスポンサーやプロデューサー、大手プロダクションの意見を聞かざるを得ない状況の中の撮影だった為、愛子の良い所が潰されてしまいーーーー。
映画自体は、制作費も回収出来て、それなりの興業収入は出していたので、コケはしなかったが大ヒットには程遠かった。
主演どころかメインキャストの決定権もないのであれば、監督をする意味もなければ、面白味もクソもないと愛子は感じ始めていた。
しかし、何だかんだ言っても二作品連続でヒットを飛ばし、将来性のあるカリスマ監督の愛子に、監督の仕事の依頼は何本か来ていた。
そこで今度は、規模が小さくても十割とは言わなくても、八割位は愛子の思い通りになる作品を選ぶ事にした。
そして、監督第三作品目のキャストの募集を開始した。
今回は、大手のプロダクションは関わっておらず、単館のみの劇場公開になる比較的小規模の映画にした甲斐があり、狙い通り八割以上が愛子の思い通りになる作品になったようだ。
それ故、才能ある新人監督の愛子に俳優を逢わせて、売り込みに来る中小プロダクションも何社かあった。
中には、個人的に愛子に気に入られようとして、枕営業まがいの事を仕掛けてくる俳優もいた。
しかし、噂には聞いていたが、本当に枕営業をしてくる奴がいるとは思わなかった。
気に食わない!
愛子は、実力もない癖にそうやって近づいて来て、使って貰おうとする奴らが大嫌いだから。
役者なら実力で役を勝ち取れ!
って当たり前の話しです。
(卑怯な真似をしているんじゃねーーーー!)
(このウジ虫野郎!!!)
と愛子は心の中で叫んだ。
オーディションには、そこそこ名の売れた俳優も受けに来ていたが、共演者キラーと呼ばれている奴や素行振る舞いの悪い噂のある奴らは、例え実力があっても迷わず落とした。
あと、何の苦労もしていないボンボン俳優も落とした。
愛子にとって基本的に妬みもあり、ボンボンが大嫌いだからと言う理由だけではなかった。
愛子曰く、ボンボンはボンボンの役なら良いが、他の役だと演技に人間の深みと厚みを感じないからだと。
そして、薄っぺらい人生しか歩んで来なかった奴に、演技をする資格など無いとまで言い放っていた。
更に、演技には俳優のこれまでの“生き様”が全て出るから、特にプライベートも大事だと。
そう言う事を踏まえてーーーー。
愛子は、演技の実力と俳優の知名度はさて置き、自分の好き嫌いだけでキャスティングを行っていた。
逆に、こんな監督の私情を挟みまくり、片寄ったキャスティングをしていてーーーー。
これからの日本オカルト映画業界は、大丈夫なのだろうか?
いや、おそらく大丈夫な訳がないだろう。
人間とは、勝手な生き物だ…………。
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