第8話

兎に角、早く撮影を終わらせたい。


愛子は、ベテランスタッフによる度重なる弱い者イジメを見て、そう思ったのだ。


自主制作映画を撮っていた時は、全てのスタッフの仕事を一人でやっていたので、気を使う事はなかったがーーーー。


商業映画になると、職人気質のベテランスタッフ達が多く、非常にやりにくい。


若くてキャリアの浅い監督の愛子にも時々、カメラマンは突っ掛かって来るし、面倒臭い…………。


更に雑用を任せられるので、助監督を付けてくれるのは、非常に有難いのだけど、こいつなら居ない方がマシだと言う奴を付けられた。


口を開けば人の悪口か、自分の自慢話が始まる。


この前も有名な監督の助監督を務めたと言わんばかりに、自分の名前が掲載された映画のパンフレットを見せられた。


しかも、同じものを三つ持っているらしい。


一つは保存用で、二つ目は自分で見る用で、三つ目は人に見せびらかして自慢用だと。


監督の愛子に自慢してどうしたいのか、理解に苦しむが…………。


家柄も良く、俗に言うボンボンで、親の金にものを言わせて生きてきたようだ。


映画学校の学費を払って貰うのは当たり前で、助監督のポジションで高級車に乗り、高級腕時計を付けている。


しかし、金持ちの割りには、余ったロケ弁やケイタリング、差し入れなどを全て一人で持って帰ってしまう程の意地汚い奴だった。


おまけに、金持ち自慢ばかりしている癖に、奢って貰おうとするドケチぶり。


人間として最低のグズとしか言い様がない。


お友達には、絶対なりたくないタイプ…………。


映画学校の卒業制作で、自主制作映画を撮って、映画祭に応募したらしいのだが、箸にも棒にも引っ掛からなかったようだ。


映画学校を卒業してからも何本か撮って、映画祭に応募し続けたが、やはり全然駄目だったらしい。


金にものを言わせて制作費も、かなり掛けて撮った作品にも関わらず、一つも入選しなかったようだ。


つまり、金はあるけど才能とセンスが無いと言う事になる。


“天は二物を与えず”


と言うか、お金も親のお金だからこの助監督は、一物も天から与えられていない事になる。


結局、親のコネと金で助監督も出来ている状態。


ギャラも要らないので使って下さいと、プロデューサーに土下座をして仕事を貰っているらしい。


愛子にとっては、大変迷惑な話しなのだが…………。


それに監督をやりたいのであれば、親に金を出して貰って、同じようなレベルの仲間を集めて、オリジナルDVDでも制作すれば良いのでは?


そして、クオリティーが低いつまらない作品なのに、金にものを言わせてレンタル屋に置いて貰って、海外の一流映画の横に並べて、俺の作品も肩を並べたよって、痛い勘違いをして自己満足に更けていれば良いのでは?


それからネット販売をして、親の金で買い占めて貰って売り上げランキングを上げて喜んでいれば?


下手くそな作品を全国公開して恥ずかしい事になるけど、素人だけは騙せる素晴らしい“趣味”だと思うよ。


監督に迷惑を掛けて使えない助監督で一生終えるよりは、好きな事が出来てバカにされている事にも気付けないので、ある意味幸せだと思うけどね。


どんくさくて下手くそな上、才能とセンスが無いのだから、親の金で解決するしかないでしょ!


好きだからと言う理由だけで、成功して食べていける世界ではないから!


“下手の横好き”はウザイだけだから!!!


恵まれた家庭環境で、何不自由なく育ったボンボンだからなのか?


若しくは何の苦労もせず、親の金にものを言わせて世の中を舐切っているからなのか?


それとも、監督として売れる事が目的ではなかった愛子にとって、本当はお金があれば自分の思い通りのオリジナルDVDを撮って趣味でやりたかった妬みなのか?


いや、それだけでは無さそうだが…………。


兎に角、この助監督の事が相当ムカつくようだった。


そして、愛子の古傷が痛み出した。


最近、この痛みが心地良くなってきた愛子であった。


そして、ボンボン助監督を懲らしめる為に、印を結び呪文を唱えて魔術を執行した。


「堊・丱・彌・穭・沮・霊・窩・娜…………」


数日後、助監督の親の会社が、数年に及ぶ多額な脱税がバレて倒産したらしい。


そして、当の本人は、酷いイボ痔に見舞われたようだ。


ちなみに、このイボ痔は愛子が、魔術の印を解かない限り治らないのである。


これで、親を頼る事が出来なくなった助監督。


これからは自分の力だけで、イボ痔と共に生きて行かなければならなくなるのであった…………。

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