第二章
第5話
愛子は、監督としての劇場公開映画、第二作品目の製作発表に顔を出していた。
懇親会で、プロデューサーの大林に、新しくタッグを組むスタッフを紹介された。
その中の一人で、今回の映画はアクションシーンが、ふんだんにある為、殺陣師の鬼藤の姿もあった。
「殺陣師の鬼藤だ、宜しく!」
愛子は、鬼藤の第一声を聞いて驚いた!
高校時代の村田先生の声に、そっくりだったからだ。
年齢も同じ位で、高圧的な態度も似ていた。
正直、苦手と言うよりは嫌いなタイプの人間だった。
しかし、仕事なのでそんな事は言っておられず、必要最低限の打ち合わせをして乗り切る事にした。
案の定、鬼藤は若手のスタントマン達の扱いが酷かった。
少し立ち回りを間違えただけで、人前で殴る蹴るは当たり前、そして平気で罵倒する。
撮影の合間の時間でも、若手のスタントマン達に嫌味ばかり言っていた。
「何だお前、大学出てるのか?」
「はい、教員免許も持っています」
「こんな事していて、親が泣くぞ!」
「…………」
「そこのお前は、あがり症か?」
「………… はい…………」
「向いてねぇんじゃないか!」
「…………」
「それでお前は、不安そうな顔してるな!」
「今日が、撮影初めてなもので」
「俺は、顔を見ればホームランを打つ奴が分かるんだけど」
「お前は、三振の面構えだな!」
「…………」
こんな会話が聞こえてきた。
あるスタントマンは、もっと可哀想な仕打ちを受けていた。
今回の主演が、子役上がりの芸歴は長いが、まだあどけなさが残る十三歳の有名な女優だったのですがーーーー。
その女優が、立ち回りを間違えたので、それを指摘したら降板させられたらしいのです。
殺陣師の鬼藤が、その女優の事をまだ“さん”付けで呼んでいるにも関わらず、そのスタントマンは馴れ馴れしく“ちゃん”付けで呼んだと言うくだらない理由らしい。
あとは、直接監督の愛子にアピールをしたと言う理由で降板させられたスタントマンもいた。
更に、可哀想なのは、筋肉隆々のスタントマンだった。
鬼藤も昔、身体を鍛えていてボディビルの大会に出る程の肉体を誇っていたらしくーーーー。
まだ将来のある若手の筋肉隆々のスタントマンを妬んで、意地悪ばかり繰り返していた。
女優に首根っこをおもいっきり蹴らせてーーーー。
「お前、鍛えてんだろ!」
と言ったり、台本もろくに見せずーーーー。
「お前、なにやるか分かんねえだろ?」
と不安を煽ったり、目の前で爆竹が鳴るシーンでもーーーー。
「お前、絶対目を閉じるなよ!」
と言われていた。
更に、ゴムが伸び伸びになっていて全然跳ねないミニトランポリンを用意されて、打点の低いスタントをやらされてバカにされたりしていた。
極めつけは、爆発のスタントで背中を火傷させられた挙げ句、復帰してきた際にーーーー。
「火傷する様な身体してんじゃねぇ」
と言われていた。
愛子は、自分が被害に遭っている訳ではないが、昔の虐待やイジメを受けた体験が蘇ってきて、非常に嫌な気持ちになり居た堪れなかった。
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