第6話

愛子は、昔受けた虐待とイジメの古傷が痛み出した…………。


撮影後、現場でスパスパ吸っていた鬼藤の煙草の吸い殻を全て回収して持ち帰った。


愛子は、煙草の吸い殻から鬼藤の微量の唾液を抽出する事に成功した!


そして、次の日ーーーー。


鬼藤が忘れていったニット帽を持ち去った。


ニット帽には、毛髪も何本か付着していた!


「フッフッフッフッフ」


愛子は、久しぶりに不適に笑った。


この頃の愛子は、すでに毛髪と唾液と身に付けているものの三点セット無しでも、魔術を執行出来るレベルに達していたが、念には念を入れて集めたのであった。


いつでも執行する事は出来るが、アクションシーンの撮影が、まだ残っているので、すぐに魔術をかける訳には行かない。


愛子は、効果の表れるタイミングと強弱、外面的にしようか内面的にしようか緻密に計算をした。


そんな事を知るよしもないまま、アクションシーンの撮影の時、また若手のスタントマンが鬼藤に言い掛かりを付けられて、イジメられていた。


そこで鬼藤が言い放った言葉とはーーーー。


「俺もイジメられたから、イジメ方を知っているんだよ!」


(こいつ、相当たちが悪い…………)


愛子は、心の中でそう呟いた。


そして、愛子は魔術の印を結び呪文を唱えた!


「堊・丱・彌・穭・沮・霊・萵・娜…………」


暫くして、鬼藤はお腹の調子が悪いと言い出して、トイレに行ったり来たりを繰り返していた。


撮影帰りに、鬼藤は腹痛に見舞われた事により、病院に駆け込んだらしいが、原因不明の為に胃腸炎の薬を処方されて帰されたようだ。


しかし、イジメを受けていた若手スタントマンの心の傷は癒えず、現場の片隅で泣いていた…………。


その姿を見て愛子は、まだアクションシーンは残っていたが、帰って直ぐに感情の赴くまま魔術に取り掛かった!


次の日、撮影現場に向かう途中で鬼藤は、交通事故を起こし、頭を強く打ち付けて意識不明になり病院に運ばれて入院した。


撮影を終えた愛子が、御見舞いがてらに病院へ様子を見に行くと鬼藤の意識は戻っていたが、打ち所が悪く首から下の神経が、麻痺していて動かない状態になっていた。


ちなみに、話す事も出来なくなっていた。


病院の先生曰く、意識もあり脳は正常だが、話す事も身体を動かす事も出来ずに、一生ベッドの上で寝たきりで過ごす事になるだろうと…………。


残りのアクションシーンの殺陣は、代わりで来た高田が引き継ぐ事になったのだが、またこいつも輪をかけて性格が悪かった。


しかも、陰湿…………。


師匠である鬼藤の下にいると皆、ひねくれてこうなってしまうのか?


これでは、純粋で有能なスタントマンが育たないのではないのか?


才能があっても、こんな奴らが殺陣師をしている以上、潰されてしまう…………。


流石に全ての殺陣師達が、鬼藤や高田のような奴らだとは思わないがーーーー。


愛子は、アクション業界を憂いた。


そして、高田に魔術の印を結び呪文を唱えた!


「堊・丱・彌・穭・沮・霊・萵・娜…………」


高田は、撮影後に腹部の激痛を訴え救急車で運ばれた。


病院では、やはり原因不明で鬼藤の時と同じく胃腸炎の薬が、処方されただけで治療は終わった。


高田の腹痛は薬を飲んでも治まらず、更に嘔吐と下痢が止まらない状態が、ずっと続いているようだ。


そして、とてもじゃないがアクションや殺陣師が出来る状態ではないらしく、暫くしてアクション業界を去って行ったらしい…………。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る