第91話

「大丈夫か?」



繋いだ手に力を込め、恐る恐る歩くあたしに、


マサトが足を止めた。



「お前、ひょっとして 高所恐怖症?」



『ううん。


でも、この階段、

足元が全然わかんなくて恐くて・・・。



海を見下ろすの自体は恐くないんだけど』



「そっか・・・」



マサトはうなずきながら何か考えてるみたいだった。



「よっしゃ、来い❗」



『え?』




あたしが聞き返すのと、



体がフワリと宙に浮いたのとは ほぼ同時だった。




気がつくと、あたしの体はマサトの背中の上。



『マ、マサト・・・?』




「こうすりゃ恐くねぇだろ?」



『だ、大丈夫だよ‼



ち、ちゃんと歩けるからっっっ‼



人、見てるし‼』



じたばたするあたし。



恐くてビビってたさっきまでとは


別の意味で心臓が暴れ出す。




近い。




マサトの顔が近いっっっ‼



マサトの体温。



マサトの息遣い。



全てがダイレクトに伝わってくる。



「いいから大人しくしてろ」



いたずらっぽい声で短く言うと、


マサトは階段を下り始めた。











マサトが階段を下りるたび、



そのツンツン短い茶髪が 柔らかく頬をくすぐる。



細身なのに すごく頼もしく思える背中から


その温もりが伝わってくる。




幸せ・・・。



この感覚を全身で感じていたくて



ゆっくり目を閉じ、



身を委ねた。














「おい、着いたぞ

・・・・・・って、




寝るなーーーーー‼」




ぐぇっ。



そんな大きな声出さなくたって聞こえるってば‼

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