第83話

絶叫マシンは好きだけど、

それはあくまで 絶叫マシンだからであって、



同じようなスピードを実生活で味わうのは勘弁だ。



だって、ヘタすりゃ死ぬって。



「ワガママなヤツめ」



『ワガママじゃなくて正論だってば‼』



あたしのあまりの剣幕に、


マサトは渋々スピードを緩めてくれた。




すっかり速くなった脈と息を整えながら、


あたしはマサトの背中に体を預けた。



スポーツマンらしく引き締まった体から


温かな体温が伝わる。



心地いい・・・。




前に後ろに乗せてもらった時は


そんなこと 感じる余裕もなかったな。



マサトを好きだっていう自覚すら まだ芽生えてなかったんだけどさ。



でも、


今はこうして 幸せな気持ちで乗っていられる。





この時あたしは、


自分の身に起こっている異変にも気付かず、



思いがけず訪れたマサトとのひと時を楽しんでいた。
















「ほら、着いたぞ」



自転車はあっという間に家の前に到着してしまった。



『ありがと。


すごい助かったよ』



降りながらマサトにお礼を言う。



ホントは


もうちょっと乗っていたかったな。



少し残念な気持ちで門扉を開けようとした時だった。



「なあ川島、


5月4日ってヒマか?」

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