第79話

『しまったなぁ、


もう少し厚着して来るんだった』



急に風が強くなり、

薄手の重ね着ワンピだけでは肌寒くなってきた。



市電を降り、家路を急ぐ。



そうだ、近道しちゃおう。



市電の駅から家までは、

学校を突っ切ってしまえばかなり時間の短縮になる。



坂を上り、グラウンドの隅にある裏門から敷地に入った。



グラウンドにはほとんど人の気配はなく、


部活を終えたらしい男子生徒3、4人とすれ違っただけだ。



お休みの日にこんな時間まで練習してて偉いなぁ。



なんて思いながら、

早足で校舎の方へ向かって歩く。



運動部の部室が並ぶプレハブの横を通って正門に出られる・・・はず・・・。



だったんだけど・・・・・・。






あれ?






いい加減歩いているのに、目印のプレハブが見つからない。






ガツン‼‼‼




『⁉⁉⁉』




突然の衝撃に、言葉もなく立ち止まる。





・・・っ痛ぁ~い・・・。



じわじわと顔全体に鈍い痛みが広がる。



ぶつかったのは、

学校と道路とを仕切るフェンスのようだった。



・・・っていうか、


あたし、どこ歩いてんの⁉




迫る夕闇のせいで、方向感覚が狂ったみたいだ。




あたしの病気は、暗闇に目を慣らすことがあまり得意じゃない。



でも、


こんなふうに 自分の居場所がわからなくなるなんてことは 今までなかった。



知らない場所ではないけど、

寒さと人気のなさが不安を煽る。




手足の感覚と外灯の明かりを頼りに歩き出す。



フェンスに沿うように間隔を空けて並ぶ外灯を辿って行けば、


正門に辿り着けるよね?

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