第78話

普段のレッスンには支障をきたさないよう、


自分なりの方法で今までやってきたけど、



さすがに今回の曲は難しくて難しくて、

いつものようにというわけにはいかなかった。



各パートの音を覚えるだけでも 複雑なかけ合いの箇所が多く、結構大変。

(それでなくても1パート多いしね)



それプラス ピアノパートはこれまた どうすんの⁉って感じの難易度。

(どうりで自由曲決まる前に、今レッスンでやってる曲を聞かれたわけだわ)




でも、渡されたMDに収められてた音源は それはそれは素敵で


絶対この伴奏 弾けるようになりたいって、心から思えた。



みんなが課題曲をある程度 形にするまでの間に、


あたしもこの曲を何とか形にしなければいけない。




暦はゴールデンウイーク目の前。



連休明けには自由曲の練習に入りたいって言ってたから、


時間はあまりない。




「天使の声・・・か・・・。



じゃあ美奏ちゃんは、


天使が安心して飛び回れるような空にならなきゃね。



さ、もうひと頑張りしましょう」



『う、はぁい』



あたしは肩をすくめながら 湯呑みをテーブルに置いた。














『ありがとうございました‼』



夕方。


お礼を言って先生の家を出る。



『うーん、気持ちいい・・・❗』



大きく伸びをして、潮の香りのする風を思いっきり吸い込む。



ド田舎で不便なことも多いけど、


こうやって海の空気を肌で感じる時は、


こんな漁師町も捨てたもんじゃないかなって思う。



『わ・・・、寒・・・』



思いの外 冷たかった風に体を震わせ、


小走りに市電の乗り場へと急いだ。

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