op.3 繋

誘い

第77話

「そこ❗ タッチを揃えて‼


もたつかない‼


テンポ ちゃんとキープ‼」



レッスン室に、

いつになく厳しい千恵子先生の声が響く。



あたしは、ついていこうと必死に指を動かす。



気の遠くなりそうな16分音譜の連続に、


腕は悲鳴をあげ、指は冷や汗をかき始めていた。



「拍子変わるわよ。


一拍目、意識して❗



走らない‼」




ふと力を緩められるのもつかの間。



今度は、

16分音符と32分音符の組み合わさったスケールの連続が待っている。



一回毎の範囲こそ狭いけど、

かなりの速さが要求される。




『あ・・・❗』




やっぱり・・・。



心配していた箇所で指が転び、手が止まった。



今日は何度ここで止まっただろうか。



「美奏ちゃん、


少し休憩しましょう。



呼吸を整えた方がいいわ」



『はい・・・』



先生の言葉に、


あたしは両手を鍵盤から下ろし、膝の上に置いた。













「それにしても、今時の中学生って凄いのねぇ。



あたしが美奏ちゃんくらいの時は、


こんな難しい曲を歌いこなせる人なんて

身近にはいなかったわ」




『読めば読むほど難しいって思うんですけど、


顧問の先生が言うには、


今年は天使の声が揃ってるから 絶対大丈夫だって・・・』




先生が入れてくれたお茶をすすりながら、

ふぅっと息をつく。



あたしは今日、


日曜日返上で伴奏の特訓を受けていた。



曲は


この間渡された、

女声合唱とピアノのためのミサ曲 第九番だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る