第76話

「そう❗


そういうことが言いたいの‼」



さゆがあたしの二の腕をつかみながら 勢いよく何度もうなずいて見せた。



「音楽を好きな気持ちかぁ・・・」



絵里は考え込むように ちょっと上を向いた。



「なるほどね。


あたしも美奏がピアノとか合唱好きなのはよくわかるし、


音とりとかでつまずいても


美奏が見ててくれれば楽しく覚えられそうな気がするもんね。



妹は姉の背中を見て育ったんだ」



絵里の言葉に、さゆは満足そうにうなずいた。




ピアノが、



音楽が好きな心が



澄歌だけじゃなく、



部活の仲間にも

音楽をやらない人にも

ちゃんと伝わってる・・・。




二人とも、

あたしをちゃんと見ててくれてる。




それが嬉しくて、あたしはさゆと絵里に抱きついた。



「美奏⁉」



絵里はいつも人に抱きついてくるのに、逆は慣れてないようで、驚いたような声をあげた。



『さゆ、絵里、ありがと。


大好き』




満たされた気持ちの中で、あたしは心をこめて二人に言った。




マサトが、

「借りてくぜ」と言って 数学の教科書をひょいと机から持って行くのが目に入ったけど、



それもスルーして、


あたしは今の 幸せな気持ちに、身を委ねていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る