第70話

あたしはバッグの中のクリアファイルを探り、


何度も見返して既にヨタヨタになった譜面を差し出した。



「・・・っつーか、ひっでー紙だなぁ。


いつから読んでんだよ これ」



『・・・先々週・・・』



「お前・・・、時々不思議だよな・・・。


っつーか、コピーぐらい取り直せよな」



『まだ使えるからいいの‼



それより歌詞だってば』



あたしの場合、



音を頭に入れる課程で


何度も譜面を手に取って読み直さなきゃならない。



隅がすぐにくたびれてしまうのはそのせいだ。



キリがないし、


本番で持って出るわけじゃないから、コピーの取り直しなんてしないんだけど、



ひょっとして ケチだとか だらしないとか思われてたらやだな・・・。



胸の奥がキュッと痛んだ。




そんなあたしの気持ちには全く気づかない様子で


マサトは譜面のラストに印刷された歌詞に見入っている。




「あ、確かにお前じゃん」



『え⁉ なんでなんで⁉』



「おう。



笑う時には大口あけてってとこ、


お前そっくり」



そこかよ⁉



『まさか言いたいことはそれだけ・・・?』



「おうよ」




はぁ・・・。



まともな答えを期待したあたしが間違ってたわ・・・。




「・・・でけぇ口」



マサトがあたしの顔をしげしげと眺めながらボソッとつぶやいた。



『な・・・⁉


人の顔つかまえて

わざわざそういうこと言う⁉』



「ついでに 声もでけぇよな」




・・・・・・・・・💧



絶対こいつ、

人で遊んでる・・・💧




『もぉ‼


人が真面目に話してたのに‼



知らないっっっ‼』



あたしはわざとふくれながら、


マサトよりも先を歩き始めた。

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