第68話

みんなより10日くらい早く譜面をもらっているから、


譜割りはバッチリ頭の中に入っている。



「美奏ー、基準の音ちょうだーい」


「ちょっとアルト助けてー❗」



先輩や同級生からヘルプの声があがる。



「はーい」



頭で考えるより先に体が動く。



美奏って呼ばれる度に、


必要とされてるんだって実感する。



江崎君はあんなこと言ってたけど、


あたしはあたしのやり方で ここでのポジションを守ってきた。



一人でみんなと違う役目をする以上、


みんなが努力するのと同じくらい、


いや それ以上に努力しなきゃいけないんだと思う。



いい作品が作れるように 各パートの音を覚えたり、


伴奏の練習をしたり、


曲について考えたりするのは


当たり前だよ・・・ね・・・?













「はい、10分休憩❗」




先生の声に、音楽室全体が リラックスした空気に変わる。



「やっほー、美奏」



テンションが上がったままの絵里が小走りにやってきて あたしの肩を叩いた。



白い肌がほんのり紅潮しているのがあたしの目からもわかる。



『やっほー。


音取り進んでる?』



「うん。


あたし初見苦手だから 予習とかあんまりしてこれないけど、


気合いで覚えるよ」



絵里はそんな状況をも楽しんでいるようだった。



「この曲、いいよね。あたし好き」



『あたしも。


伴奏もメリハリがあってきれいだし』(自分本位?)


絵里の言葉に、あたしも同感。



「それにこの曲、


すごく美奏先輩っぽいし」




『⁉⁉⁉』



突如 自分のすぐ真横から聞こえてきた声に、


思わず体がビクッと反応してしまった。

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