第67話

普段の江崎君は、あたしに対してとても感じよく接してくれる。



うっかり落として行方不明になっちゃってた消しゴムをさりげなく見つけてくれたり、


理科の実験みたいな どうしても目がないと遅れがちになってしまうような時に、

これまた自然に声をかけてくれたり…。



直ちゃんやさゆ、絵里でも 最初はなかなかこうはいかなかった。


あたしが何も言わないのに、


しかも知り合ってまだひと月も経たないのに、


彼の接し方は 確実にツボに入ってる。




ただ、



ピアノの話になると、妙につっかかってくるんだよね…。



何だか、嫌味を通り越して 敵意を向けられているような気さえしてくる。



どうしてだろう…。



だから、


よく言葉を交わすことはあっても、



あたしは


江崎 圭という人に 気を許すことはできないでいる。



『江崎君にはそうでも、あたしはそれが好きでやってるの。


だから、水刺すようなこと言わないで』



あたしはそれだけ言うと、何か言いたそうにしている彼を無視して、次の授業の準備を始めた。





















「今日からコンクールの曲の音取りに入ります。


焦らないでいいので、確実に覚えるように。



しばらくは、課題曲の "信じる"を練習すること」



先生の指示に、部員達が各パートに分かれていくつかの輪を作る。



あたしもピアノの前に座り、いつ誰が来てもいい体制を作る。

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