第66話

教室に戻り、自分の席に着くと、


江崎君がすぐに声をかけてきた。



『うん。今もらってきたの』



「部活の?」



『そうだよ。


コンクールでやる自由曲なの』



「へぇ・・・。ミサ曲かぁ・・・」



江崎君はそう言いながら、机の上の譜面を手にとった。



「大変そうだね。


覚えるの」



『うん。全パート覚えなきゃいけないからね。



この曲、女声合唱だけど4部だし』



「え⁉



川島さん、そんなことまでやってるの⁉」



はいぃ⁉



江崎君、確か去年、

校内コンクールの伴奏やったんだよね?



合唱の伴奏って、

ただ伴奏譜通りに弾くだけじゃ務まらない。



増してや クラス合唱って、普段歌い慣れてない人が多いから、


アルトやテノールみたいに ピアノが旋律をとることが少ないパートは


ソプラノみたいな強い声につられてしまうことが多い。



そんな時は、不安定なパートの旋律だけを抜き出して伴奏にかぶせたりしなきゃいけない。



そんな当たり前のことを、


江崎君はしなかったというんだろうか…?



「ほんと、物好きだよね、川島さん」



『……はぁ…』


「僕にしてみれば、考えられないけどね。


わざわざ部活に入ってまで、しかもレッスン時間を削って伴奏者をするなんて」



何だかな…。


この人、やさしいんだか、ケンカ売りたいんだか、よくわかんない人だわ…。

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