背中

第65話

「はい、これ。


自由曲の譜面ね」



4月も下旬にさしかかろうとしているよく晴れた日。


あたしは職員室に呼び出されていた。



「ざっと見て 読めるか確認してくれる?


ちょっとその譜面、全体に細かいから」



合唱部の顧問をしている岩崎先生はそう言いながら、あたしに紙の束を渡した。



うわ…、多い…。



『女声合唱とピアノのためのミサ曲…?』



宗教曲をやるのは始めてだ。



何か、難しそう…。



「難曲なんだけどね。


でも、ここの合唱部は、


コンクールの毎に難曲に挑戦することでここまで大きくなってきたのよ」



うちの部は、この辺りでは強豪だ。



毎年出場しているコンクールでは、


全国大会進出こそ果たせていないものの、


県大会まではいつも突破し、全国大会進出校を決めるブロック予選にコマを進めている。



「もちろん、あなたのピアノにとってもプラスになるはずよ。


はっきり言って今までの曲より難しいから、


譜読みも暗譜も大変だと思うけど、、頑張ってね。



あ、音源、持ってく?」



『はい。お願いします』



手の中でずしりと重い譜面と 音源の入ったMDを抱え、


不安とワクワク感の入り交じった気持ちで職員室を出た。













「川島さん、それ、楽譜?」



『え…?』

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