第48話

「・・・萌ー、


この後、歌詞 何だっけ?」




ガクッ



あたしとのぞみが思わずコケたのは ほぼ同時だった。




小春の傍で見守っていた何人かの1年生もコケたっぽい。




「小春ー!


せっかく上手に歌えてたのに、ムード台なしー!」



「エヘヘ、あたし歌詞覚えるの苦手みたい」




「しょうがないなぁ。次はね・・・」



萌と呼ばれた1年生が続きを伝える。



あの子は確か、メゾで絵里が練習見てあげてる子だ。



背もテンションも高い小春に対して


小柄で落ち着いた萌は 見た目も中身も対象的。



でも2人はとても仲がいい。




「そっかぁ!


思い出したよぉ!



ねぇねぇ、


あたし さっきまでのとこ、ちゃんと歌えてた?



音とか狂ってなかった?」




小春は相変わらずよく通る声で周りの子たちに聞きまくっている。




「音とりが終わったばっかりにしては いいと思うわ」




別の声が会話に加わった。




「ホント⁉


千里が言うなら大丈夫だよね⁉」




小春が嬉しそうな声をあげる。




『ねぇ、のぞみ。


あの千里って子、



ひょっとして高原千里?』




「そうだけど 何・・・?」



『や、別に。


ただ 懐かしいなぁと思って』




彼女ーーー、



高原千里は あたしやのぞみが小学生の頃に入ってた児童合唱団で一緒だった子だ。



同じソプラノで とても上手い子だったから、よく覚えてる。




小春がその素質で注目されるのに対し、



千里はその努力の上に成り立っている実力を買われている。



もっとも、千里のお母さんは声楽の先生だから、


千里にも歌の素質はある程度あるのだろう。



それでも 彼女の歌からは常に努力の跡が感じられる。




千里を見てると、

あたしより年下なのに、



音楽を続けてくって、そういうことなんだろうなって思わされて、



あたしも見習わなきゃって 反省させられる。




今の力に満足してちゃいけないんだって、


そういうオーラを感じる。




千里はそういう子だ。
















先生の指揮棒が振られ、


あたしは曲のイントロを弾き始める。

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