第47話

全パートの音が頭に入っていることはもちろん、



時には、伴奏をつけながら 内声パートの音をメインに拾って弾くなんて器用なことをやらされることもある。




自分のレッスンの合間にそういう下準備をするのは


正直な話、大変じゃないって言えばウソになる。




だけど、



今あたしは このメンバーから必要とされてる。



その事実が、


あたしにパワーをくれる。




一緒に一つの作品を作り上げられることに、



たまらない嬉しさとやり甲斐を感じてる。
















「では 10分休憩。



その後、全員で合わせてみましょう」




先生の言葉を合図に、仲の良い者同士の輪があちこちにできていく。




さっきから飲み込みの遅い子につきっきりだったせいか、思わず安堵のため息が出た。




まずい・・・。



今の、聞こえてしまわなかったかな・・・?




誰だって、自分の目の前でため息をつかれたら嫌だもんね。




少し頭を休めたくて、


あたしはピアノのところに戻って休むことにした。




立ったまま 目を閉じてピアノに上半身を預けると、


天板の冷たさが紅潮した頬に心地良く伝わってきた。




「・・・ったく、緩みきってるわね。



1年の前でやめなさいよ、みっともない」



のぞみの声かな?



『いーの。


あたしはのぞみとキャラ違うから』



「つーか、そういう問題じゃなくてっっっ‼」



のぞみはすっかり呆れた様子だ。




そんな時だった。



🎵~~~🎵




心地良く耳に響く旋律。




🎵🎵🎵




歌・・・?




「マジ?


中森じゃん」




のぞみの言葉に、あたしはあわてて上半身を起こした。




『ホントに・・・?



っていうか、上手いじゃん・・・』




気持ち良さそうにまっすぐ前に伸びる声。



その透明感のあるソプラノは、間違いなく小春のものだった。




なんて澄んだ、きれいな声を出すんだろう・・・。



今までにも上手な人といっぱい出会ったけど、


あんなに素直な歌い方をする人は初めてだ。




今日やった曲は幅の大きな音の移動が多く、


特にソプラノは苦戦する子が続出だったのに、



小春の歌声からはそんなことは全く感じられない。




🎵~~~🎵 ・・・・・・




あ、止まった。

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