第46話
「美奏がそう言ってくれてホッとしたわ。
でも、気をつけてね。
新入生は中森さん一人じゃないから。
彼女をひいきするみたいにはならないようにね」
『はい』
「じゃ、今日も頑張っていきましょ」
『はい!』
カオリ先輩はあたしの背中を軽く叩くと、筋トレ開始の指示を出し始めた。
合唱部の練習は2人組での筋トレから始まる。
歌うための腹筋。
姿勢を維持するための背筋。
声量や声の伸びを左右する呼吸器筋・・・。
鍛えなきゃいけないところはいっぱいある。
運動部なみのプログラムが組まれた練習メニューをもくもくとこなす。
ペアごとに数をカウントする声と、荒くなった息遣いだけが音楽室を支配する。
最後に向かい合って腹式の深呼吸を繰り返した後で、初めて発声練習をすることができる。
最初の頃は、キツくてどうしようかと思った。
小学生の時は児童合唱団に入っていたけど、
筋トレなんてしなかったし。
だいたいあたし、基本的に運動苦手だしね。
半年もやればもう慣れたけど。
あがった息を整えながらピアノに向かう。
椅子に腰掛け、鍵盤に指を置いた途端、
疲れも吹っ飛んでしまうような気がする。
目をつぶっても弾けるくらいに指に馴染んだ転回和音。
立ち上がる声。
たまらなく好きな瞬間だ。
「美奏ー!
ちょっと音ちょうだーい!」
『はーい』
本格的なパート練習が始まり、3~4人ずつの小さなグループができる。
あたしたちのレパートリーを1年生に伝授するためだ。
小品から初めて、徐々に難易度を上げていく。
読譜の全くできない子もいれば、
渡してあった譜面を先読みしてくる子もいて、
グループごとに進み具合はまちまちだ。
あたしは決まった役割を持っていないから、
音を欲しがっているパートがあればピアノを弾き、
グループの中で一人、ついていけない子がいれば 脇で一緒に歌ったり、個別にみてあげたりしてる。
究極の便利屋といったところだろうか。
「美奏、このDのとこのメゾの音、くれる?」
先輩の譜面を確認し、弾き始める。
伴奏者って、ただ伴奏用の譜面だけ弾ければいいってもんじゃない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます