第44話

「小春は美奏にベタ惚れだからね」



絵里は言いながらあたしの反応を楽しんでいるようだった。



「ま、あのキャラで迫られても あたしは絶対面倒みらんないからいいけどね」




のぞみは苦笑いした。






さっきの1年生の名は、中森小春。



ソプラノ希望で、声量は同じパートの1年生の中ではダントツだ。



でも実は彼女、


合唱の経験は小学生の時のクラス発表でやった程度らしい。




新歓での発表に感動して、即入部を決めたんだって。



未知の世界、やったことのないものに挑戦するのって、結構勇気がいる。



だから、何のためらいもなく合唱部の門を叩いた小春はすごいなと思う。













『こんにちはー❗


よろしくお願いします❗』




音楽室全体に聞こえるように挨拶し、まっすぐピアノに向かう。



絵里とのぞみも同じように挨拶し、2年生がかたまっている方へ向かっていった。




1年生が机を部屋の隅によせ、練習スペースを作るのを眺めていると、


あたしも2年生になったんだなって実感する。




「美奏、よろしくね」



『カオリ先輩❗


よろしくお願いします❗』




気がつくと、部長のカオリ先輩が横に立っていた。




入部の時からあたしを気遣ってくれているやさしい人。



キャリアも実力もある、ソプラノの主的な存在だ。




「ねえ美奏、


ちょっといいかな?」



カオリ先輩は声のトーンを落とすと、耳元でささやくように聞いてきた。



「あの子・・・。



中森小春って子、

美奏はどう思う?」



『どうって・・・』



あたしは一瞬言葉をにごした。



こういうふうに話を振られるってことは、


悪いうわさが基盤にあるってことだもんね。



『あたしは・・・、素直でいい子だと思います。



ちょっと暴走しがちだけど、悪気はなさそうだし。



あたし、慕われてるみたいですけど、頼られるのって嫌いじゃないみたいだし、


かわいいと思います』



先輩の声にトーンを合わせながら、自分の正直な気持ちを伝えた。




「そう。


それならいいの。



あたしも彼女にはいろんな意味で期待してるのよ。



ただ・・・ね・・・」



先輩は小さく辺りを見回すと、更に小声で言った。

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