op.2 動

先輩

第43話

『よーし!


今日もバリバリ練習するぞー‼』




よく晴れた放課後。



ジャージに着替えたあたしは、絵里やのぞみと一緒に音楽室に向かっていた。




「あんた、放課後になると突然テンション上がるわよね」



『だって、練習楽しいじゃん』



「いいわよね、あんたは。


一匹狼だからお気楽で」




のぞみはそう言いながら頭を抱える仕草をした。




「ったく、


あたしらが1年の頃は あんなにお子ちゃまじゃなかったわ絶対‼」




「のぞみってば、

自分だって ひと月前まで1年だったくせに」



絵里がもっともなツッコミを入れながらおかしそうに笑った。




新歓から1週間。



発表がうまくいったおかげもあって、


その日の放課後から かなりの数の新入生が仮入部として練習に参加していた。



「すぐ群れるし、


ピーピーキャーキャーうるさいし、


注意すりゃ こわーいとか言うし‼」



完璧主義ののぞみは ペースを乱されることに早くも苦戦している様子。




少人数に分かれて1年生に音を教えたりする時は、


2年生もちゃんと教える側に立たなきゃいけない。



きっと どこのパートもそこ特有の苦労があるんだろうな。




「げ!


またうるっっさいのが来た!」




何気なく後ろを振り向いたのぞみは、また頭を抱えた。




次の瞬間、




「せんぱーーーーーーーーい‼」




廊下のとんでもない向こうから、勢いよく近づいてくる甲高い声。




『小春!』



声の主はあたしに追いつくと、急ブレーキをかけるように止まった。



「小春、廊下走んないの」



絵里がたしなめる。



「はーい。


すみませんでした」




彼女が頭を下げると、耳の上で二つに結んだ髪が大きく揺れた。




「美奏先輩、


今日もよろしくお願いします‼」




『ん! 頑張ろうね!』




「はいっっっ‼」



「ほら1年!


さっさと行って場所作りやって!」



「はいっっっ‼」




彼女はのぞみの言葉に大きくうなずくと、


一目散に音楽室へ走って行った。




やれやれ。



走るなって今言われたばっかりなのに。




「ホントにわかってんのかな? あいつ。



だいたい なんで川島だけ名指しなのよ!」




のぞみは納得いかないという感じだ。

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