第40話

・・・あたし、あまりそういうことって意識したことないけど、


ちょっと当たっているとこもあるのかもしれない。



信号のない道路を渡るのはこわいから、用心しすぎってくらい慎重になるし、


視野のない左側の手は無意識に大きく振って 人や物に体当たりするのを防ぐクセがいつの間にかついていた。



「アキヒロも視力が低いけど、美奏の見え方とは全然違っただろう?



あんなに大きい字でも美奏にとっては大仕事なんだ。


もっと字の小さい教科書や辞書を読んだり、ノートをとるのに 目を近づけなければいけないのは当然だと思わないか?」




・・・・・・・・・・・・。



誰も言葉を発する人はいなかった。


「その条件で 机に置いたノートに字を書くには、


体を思いっきり前に倒して 机に上体を預けなければならない。



ちょっと考えればわかることだろう?」




・・・・・・・・・




教室はしんと静まり返ったままだ。



「誰だって 苦手なことや弱点のひとつぐらいあるはずだ。


それをいちいち クラス全員の前で指摘されていい気持ちがするか?



気にしていることを言われていい気持ちがするか?



美奏の弱点は、自分の努力ではどうにもできないことなんだぞ。



それを みんなの迷惑だなんて言われたらどんな気がする?



そういうやつに限って、自分が同じことをされるとキレる。



美奏が何も言わないからって、自分がされて嫌なことを人にしていい理由にはならないんだからな。



クラスメイト同士、いろんな個性の人を認め合う努力をしてほしい。



私の言いたいことはそれだけだ」




先生の言葉に、リカがいらついたように舌打ちするのが聞こえた。



ある意味、こういうタイプが一番厄介なのかもしれない。



「先生!」



さゆが手を上げた。



「はい、さゆみ」



「あたし達、川島さんに迷惑かけられたことなんて一度もありません!」



強く凛とした声が響く。




さゆ・・・、ありがとう。



「はい! あたしもそう思います!」



弥生・・・。



「あたし、美奏がいなきゃ困ります!


迷惑とかありえない!」



絵里・・・。




なんだか 目頭が熱くなっちゃうよ・・・。




「美奏」



先生がもう一度あたしの名前を呼んだ。



「美奏はこの席替え、どう参加したい?」




『あ・・・、あたしは』



答えはひとつ。

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