第38話

2時間目は席替えだった。



あまりにも仲の良い者同士で固まりすぎていて、男女のバランスが悪かったし、誰も意義を唱える者はいなかった。



でも…。











「先生!」


ふいに窓側の方から声があがった。



「ん? リカ、どうした?」



先生が声の主に向かって聞いた。


飯田リカだ。



こういう時に、リカが発言すると、ロクなことがない。



「席替えってぇ、


川島さんも一緒にやるんですかぁ?」



間延びしたいやみったらしい聞き方。



「そうだよ。何か問題でもあるのか?」


「えっとぉ…」



先生の反応に、リカは一瞬 言葉に詰まってから続けた。



「笠木先生はぁ、


みんなの迷惑になったり足を引っ張らないようにぃ、


川島さんを真ん中の一番前に座らせてましたけどぉ?」



笠木というのは、去年の1年4組、つまり あたしがいたクラスの担任だった人だ。


あたしはこの人に入学早々目をつけられ、

(別に何も悪いことしたわけじゃないんだけどね)


事あるごとに 差別と偏見たっぷりに扱われてきた。



「迷惑?」



先生の声が少しだけ険しくなった。



「今言ってくれたのは、笠木先生の意見だね?


じゃあ、リカ自身はどうなんだろう?



リカ自身も迷惑だと思うから、そういう意見を出したのかな?



じゃあ、どうしてそう思うんだろう」




あたしを嫌いなコは、必ずあたしの体の欠陥にこじつけて攻撃してくる。



「なんかぁ、いつも寝てるしぃ、


動きとかおかしいしぃ、


先生の目が届くとこで観察しててもらわないと、みんな困ると思いまぁす」




リカは、一生懸命に理由を探すように答えた。



「そうか・・・」



リカの言葉を受けた先生は、一瞬考えるようにつぶやいてから 次の言葉を発した。




「この中で 今、メガネとかコンタクトを使ってる人、


ちょっと 手、上げてみて」




何人かの手が上がるのが、布のこすれるかすかな音でわかった。




「じゃあ、アキヒロ。


ちょっと協力してくれないか?」



「あ・・・、はい・・・」



指名された男子が戸惑った様子でうなずいた。



一体、井上先生は何をするつもりなんだろう・・・?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る