第20話

どうしよう。



考えてみればあたし、マサト以外の男子とは あまりちゃんと話したことない。



いじめがおさまるまでは こわくてそんなこと考えられなかったし、


全てがまるくおさまって マサトとつき合いだしてからは、

マサトに誤解されるのがイヤで あえて話すのを避けてた。




どうしよう。



こんな時って、何を言ったらいいんだろう・・・。




『ぁ・・・、あの・・・』




「よろしく、


川島美奏さん」




え・・・?



なんであたしの名前・・・?




どこかで会ったことがある人なのかな・・・?



でも、全然覚えがない声。



『あの・・・、



ど、どちら様ですか?』



失礼かと思ったけど、ホントにわかんないから仕方ない。




「僕、君と同じクラスだよ。


江崎 圭(えざき けい)。よろしく」




知らない名前・・・。



『よろしく・・・お願いします・・・。



でも、どうしてあたしの名前・・・?』



クラス全体での自己紹介もしてないし、名簿もないのに・・・。




「この学校で ピアノを真剣にやってる人なら みんな知ってるよ。



去年のベストピアニスト」




あ・・・、



そっか。


コンクールで賞をもらった時、全校生徒の前で名前を読み上げられたっけ。



でも、それにしたって、もうずいぶん日にちが経っているのに・・・。




『江崎君、すごいんだね、ピアノ・・・。



あんな迫力ある音が出せるなんて』



「そんな・・・、たいしたことないよ」



彼は照れたように言うと、軽くうつむいた。



なんか かわいいな、この人。



あたしはあらためて 江崎君の姿を眺めた。



全体に細いシルエット。



背はそんなに高くない。



髪は短いけど、ちょっと天パっぽく波打っているのが影でわかる。




声は高くもなく低くもなくといったところ。


落ち着いた話し方が印象的だ。



合唱だったら、

華やかな主旋律よりも、


深みを添える内声ってイメージかな。




顔の特徴までは認識できないのが ちょっと悲しいところだけどね。




「それより どうしたの?


もうホームルーム終わってるのに」



江崎君は顔を上げ、話題を変えた。



『あ、あたし これから部活なんだ。



伴奏やるから、その前に指慣らししときたいなって思って』

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