第12話

『ちょっとぉ、おどかさないでよ』



「いい加減 慣れろよ。



学習能力のねぇヤツだな」



『何それ⁉


悪いのあたし⁉』



背中に振り下ろそうとした掌を、


そいつはいとも簡単そうに阻止した。




悔しいけどかなわない、力強い腕。



このいたずらっぽい笑顔で見下ろされると、


あたしは何も言えなくなってしまう。





あたしの



生まれてはじめてできた彼氏、




北川正登(キタガワ マサト) ────。












マサトとあたしが出会ったのは 去年の春。




きっかけは ぶっちゃけた話、いじめだった。




あの日、




男子にノートを取り上げられたあたしは



取り返そうとムキになっていた。




ノートは男子からのぞみの手に渡り、



その頃

あたしをよく思ってなかったのぞみは、



それを思いっきり教室の外へ投げた。




ノートは 廊下を歩いてた よそのクラスの男子に命中。




その男子が




マサトだった ───。










それからしばらくして、屋上で偶然再会したのをきっかけに



マサトはあたしによく声をかけてくるようになった。




長年のいじめのせいで 男子はこわいだけの存在だったはずなのに



なぜかマサトのことは こわいと思わなかった。




どこか お兄ちゃんに似てるとこがあったからかもしれない。




口が悪くて わざとあたしを怒らせるとことか、




あたしを障害者扱いしないで接してくれるとことか。




…そして



ここぞって時は すごく頼りになるところとか…。






マサトには なんでも話すことができたし、



マサトもそんなあたしを 戸惑いながらも受け入れてくれた。





ひどいいじめに悩み、自殺を図ろうと線路に立った時も



命がけで助けてくれた。




あの時、マサトがかけつけてくれてなかったら、



生きていることも



家族やみんなとわかり合うことも



叶わなかった…。




ずっとずっと頼って、必要としていた人。




マサトが好き…。




そのことに気付いた時、



マサトも同じ気持ちでいてくれたことが 嬉しかった。











「美奏ってば、朝からラブラブだね。


ひゅーひゅー」




『やだなぁ もう‼ 絵里ってばぁ‼』




ぱこっ✋

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