第17話

数歩先には、見事な桜並木が広がっていた。




青い空に、 沢山のピンク色がよく映えて、


それは とてもとてもきれいだった。




ちゃんと見えてないあたしの目にも、その色は鮮やかに映っている。



足元も、ピンクのじゅうたんを敷き詰めたように、


花びらで埋め尽くされている。




『お母さん、すごいよ❗』



あたしはそう言って、お母さんの手を木の幹に触れさせた。



『これくらいの桜の木がいっぱいあるの』



足元から、きれいそうな花びらを一枚拾って、


お母さんの反対の手のひらにのせる。



「小学校には桜があんまりなかったから、こんなの初めてだね」



お母さんが言った。



『うん』



あたしは圧倒されながら うなずいた。



急に、わくわくするような気持ちが


心の中にふつふつと湧き上がってくるのを感じた。



『行こっか』



あたしは、花びらをもう一枚拾ってポケットに入れると、右腕をお母さんに差し出した。



もう小さい頃からしみついてる


お母さんと歩く時の基本ポジション。




最初は手をつないでいたのが、


体が大きくなるに従って、肩を貸すようになり、


最近ではようやく 正式な介助の形 ──


肘を貸す形になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る