第5話
『え…?』
あたしが自分の背負っている体の障がいに気づいたのは、
突然のことだった。
卒園式まで1ヶ月をきった、
やわらかな陽射しが心地いい日だったことを、今もよく覚えてる。
あの日は確か、
卒園式で読み上げるお別れの言葉を、
誰が読むか決める日だった。
セリフはあらかじめ決まっていて、
それを先生が慣れた手つきで板書していく。
あたしはその様子をなんとなく眺めていた。
「じゃあエミちゃん、読んでみてくれる?」
先生があたしの隣の席の女の子を指名した。
「はい❗
さくらのつぼみもふくらんで…」
エミちゃんは元気よく立ち上がり、読み始めた。
あたしはその様子を呆然と見ていた。
先生やみんなの声が遠くなっていく。
あたしの目には文字は映ってこなかった。
見えるのは大きな黒板と、
そこに書かれた白いかたまりだけ。
いや、
何か書いてあることを知っていたから、白いかたまりがあるような気がしていただけで、
本当はそれすら見えていなかったのかもしれない…。
エミちゃんだけじゃない、
他の子もちゃんと読んでいる。
あたしだけがわからないの⁉
心臓が波打つのがわかった。
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