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蕾と過ごした最後の夏は恋人っぽいことをしたいと思った私が無理に連れ出した花火大会が1番の思い出。
あの日は初めての彼氏のために青い朝顔が可愛い真っ白な浴衣を着て、ヘアセットを友達にお願いして、メイクは不慣れだけどウォータープルーフと書かれたマスカラでまつ毛を上げ、花火に負けない鮮やかな恋色の赤を口に塗って駅前で蕾を待った。
けど、蕾はやっぱり予定通りの時間には来なくてその日は駅前の混雑もあって合流するのに30分もかかってしまい、下駄の私を早足で会場へと連れていこうとする蕾を初めて嫌と思ってしまったのを覚えてる。
瞳「足…、痛い…。」
私は靴擦れの中、歩くだけで精一杯で時間を確認するのを忘れていると、遅刻してきたはずの蕾は少し不機嫌そうな顔をして初めて私とは違う思いを口にした。
蕾「僕があげたスニーカーで来ればよかったじゃん。」
と、最近スニーカーを履かなくなった私にわざとそれをプレゼントした蕾の気持ちがお囃子と一緒に耳に伝わってきて私は思わず泣きそうになった。
瞳「…お祭りだから。」
蕾「僕はスニーカーだけど。」
蕾は履き古してかかとの内側がすり減っているスニーカーを見せて苛立ちをぶつけてくる。
けど、私は怒りよりも悲しい気持ちでいっぱいになり、汗じゃなくて涙でマスカラを落としそうになってしまうと蕾はため息と舌打ちを混ぜた様な音を口から漏らした。
蕾「…コンビニ行って絆創膏買おう。」
そう言って蕾は自分のスニーカーを脱ぎ、私の下駄と交換して行く先に見えたコンビニに入って絆創膏と水分補給のお茶を買った。
けど、蕾は私と靴を交換せずにまた早歩きを始めて花火がよく見える会場へと急ぐ。
瞳「下駄…、変えるよ?」
蕾「あっち行ってから。瞳、足遅い。」
私がザリザリと大きすぎて合わない靴をアスファルトで鳴らすと同じように、蕾も下駄をカンカン鳴らして打ち上がり始めた花火を見ながら邪魔な背景が一切ない河川敷に座って一息つく。
けれど、蕾は私の家に帰るまで下駄を履き続けて次の日皮が剥けた指の付け根と足の甲に絆創膏を貼り、私が整理していた宝箱をじっと見て呟いた。
蕾「臭い。」
と、蕾は数回しか使ったことのないファンデの匂いが嫌いらしく、また不機嫌そうにしてベッドに寝転がり私の家に置いている漫画を読み始めた。
その時の私もメイク用品の匂いが苦手で、ファンデやチーク、アイシャドウの粉物を使うことがほとんどなかった。
けど、友達には粉で顔に色をつけた方がもっと可愛くなると言われ、まだ『紅芋』と言われていた夏休みの間に作り上げたお面をみんなに見せるとみんなして手のひら返し。
垢抜けた。
可愛い。
私にも教えて。
そういう声が集まると私を紅芋と言う人はいなくなり、私を初めて『紅芋』と命名した美人の先輩は殿堂入りしたミスコンに私を出場させ、大恥かかそうとしてきた。
私もそうなると思った。
けど、私も先輩も蕾も残ると思ってなかった最終選考で8人中2位という高順位に入り、私の周りには一気に友達が増えた。
それに蕾は何も言わなかったけど、多分あそこからもっと私たちの距離は遠くなっちゃったんだと思う。
環流 虹向/ピンヒールでおどらせて
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