649:23:17

高倉さん、お腹痛いって言ってトイレにこもりっぱになって10分近くになるけど大丈夫かな。


私は高倉さんのお腹の調子を軽く心配しながらお風呂にお湯を張っていると水が流れる音もなくトイレの扉が開いた。


幸来未「大丈夫?」


高倉「…あ!はい!大丈夫ですっ。」


高倉さんは若干照れながらそそくさと買い物袋が置いてあるベッドルームに走っていった。


私はそんなマイペースな高倉さんの後を追わず、お風呂でメレンゲを作るためにバブルバスを入れてから部屋に戻ると、高倉さんはお酒を丁寧にミニ冷蔵庫へ入れていた。


幸来未「いいのに。」


高倉「冷えてた方が美味しいじゃないですか。」


そうだけど、そんなのを気にする人いつもいなかったよ?


私、出しとけって若干キレられたよ?


私は高倉さんが持っている買い物袋から瓶のシードルとフローズンベリーを出して先にソファーに座り、TVをつけるといつも通りAVが流れ始めた。


今日は学園ものかと見ていると、自分が推している女優さんが登場したのでそのまま見ることにした。


やっぱり綺麗だなぁ。


スラっと背が高くて脚が長いからミニスカートがとても映える。


しかも、おっぱいも大きくてお尻の丸みも綺麗。


きっとジムなんかで鍛えているんだろうけれど、私が同じように鍛えたってこの人のような美体型になれない。


なにやっても他の人よりちんちくりんで、良くてもポポちゃん人形みたいと言われるくらい。


この人みたいにスタイル抜群のリカちゃん人形って呼ばれる体型になりたかったな。


そう思っていると、収納を終えた高倉さんがソファーの端っこに座り、カシュっとグレープソーダを開けて1人で勝手に始めようとしたのを私は手首を掴み、止める。


幸来未「…待ってたのに。」


高倉「す、すみません。」


幸来未「はい、乾杯。」


高倉「か、かんぱい…。」


高倉さんはここに来るまでずっと目を合わせて話してくれていたのに、今は全く合わなくなってしまった。


私はそれにちょっと不便を感じながらしゅわしゅわりんごスパークを2口飲んで、そこにフローズンベリーを少し入れる。


この呑み方を初めて私に教えてくれたのは自分のことを幸来未の彼氏と言って、次の日から音沙汰なくなった人。


けど、それが私にとっての初恋で初彼で初キスの味だからたまに飲みたくなる。


ちょっと寂しさを感じた時はこれを飲むようにしてたけど、あの人以外の前では初めて飲んだ。


こうやって人と遊ぶのが久しぶりだったからかもしれない。


だからちょっと寂しいと思ったのかも。


私が1人で少し昔のことを思い出していると、高倉さんがTVリモコンに手を伸ばしていた。


幸来未「変えたい?」


私が少し残念そうに呟くと高倉さんは手でびっくりしてやっと私と目を合わせてくれた。


高倉「…少しだけ音量を下げようかなと。」


幸来未「そっか。いいよ。」


推しが見れればいいし、高倉さんの火照り過ぎて額に汗をかき始めた顔も少しは落ち着くだろう。


私は音量を囁き声にもならないくらい下げた高倉さんにお尻1つ分近づき、おつまみのミックスナッツからクルミを1粒つまんで高倉さんの口元に持っていく。


高倉「え?」


幸来未「嫌い?」


高倉「えっ…とぉ、す、す、好きです。」


幸来未「じゃあ、どうぞ。」


私はクルミと高倉さんをキスさせてから食べさせる。


私も食べようと自分の口元にアーモンドを持っていくと同時に高倉さんがお尻半分を私に近づけて、ゆっくりと口を開いた。


高倉「幸来未さんって…、なんか…」


思ってた感じと違う?


意外と大人っぽい?


案外と軽い?


どれを言われるんだろう。


けど、こういう恋愛の仕方しか知らないからこうするしかないんだ。


長い時間を無駄にするより、1日でも早く寂しくなる日を減らしたいからこうするしかないんだ。


ごめんね。


こんな生き方しか出来なくなっちゃって。


高倉「僕の姉ちゃんに似ててびっくりしちゃいます。」


と、マシュマロ笑顔の高倉さんは私が思ってもみないことを言った。


高倉「僕の姉ちゃんって世話好きなのか、なんでも食わそうとしてきたり、僕が迷子にならないようにずっと手繋いでくれるんですよね。」


幸来未「…お姉さんって高倉さんみたいに身長高い?」


高倉「え!?僕…、初めて身長高いって言われた…。」


幸来未「高いよ。見上げないといけないもん。」


高倉「…僕は四捨五入したら170ですけど、姉ちゃんはしなくてもちょっと超えます。」


高倉さんは軽く鼻でため息をつきながら唇を尖らした。


幸来未「2人とも羨ましいな。お姉さん、スタイルいいんだね。」


高倉「でかいだけです。肉付きいい方なんでモデルさんとか想像しないでくださいね。」


幸来未「そんなこと言っちゃダメだよ。気にしてるかもしれないんだから。」


見た目を悪く言うのはあんまり好きじゃないけど、デブって言わないだけマシか。


高倉「…ごめんなさい。明後日姉ちゃんに会うんで詫び入れときます。」


幸来未「うん。粗品もね。」


高倉「はい…。」


意外といい人なんだと知った私は一度だけ高倉さんを試してみることにした。



環流 虹向/23:48

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