649:21:32

私は泡風呂を楽しみながら高倉さんを呼んだけれど、手で自分の目を覆っている高倉さんは顔だけ扉から出して一緒に入ってくれそうにない。


幸来未「洗面所にあるメイク落とし取って。」


高倉「え…!?あ、はいっ…。」


何をそんなに動揺してるんだろう。


今見てもこの後見ても私の体は減らないし、気にしないのに。


高倉「…えっと、これで合ってますか?」


と、高倉さんは顔をこちらに向けないで手を伸ばし、メイク落しのオイルを渡そうとしてくる。


私は純粋ぶる高倉さんの手を掴み、無理矢理同じ空間に入ってもらった。


高倉「うわっ!…え?あ、あの、靴下めっちゃ濡れた…、です…。」


高倉さんは目を薄っすら開けて自分の足元を見るとずっと赤かった顔が少し落ち着く。


幸来未「泡風呂はお姉さんと入ったことある?」


私はそのまま高倉さんの手を泡風呂に突っ込み、胸前でマッサージをする。


高倉「…幼稚園の頃に2、3回あるかも。」


幸来未「そうなんだ。私とは?」


高倉「え?」


高倉さんは今日イチでトマトくんになり、泡風呂に入っている私と目を合わせた。


幸来未「一緒に入ろうよ。温かいのきもちいよ。」


高倉「い、いや…、それは…」


幸来未「時音ときとくんと一緒入りたいな。」


私は作り笑顔をして高倉さんの手を自分の胸元に触れさせようとすると、高倉さんは寸前で私の手から離れてお風呂場から逃げた。


高倉「こ、こんどでっ。」


そう言って高倉さんは足跡をフローリングにつけながらベッドルームに戻ってしまった。


今度はないから今日なのに。


今度が欲しかったなら今日ホテルに入っちゃダメだよ。


やっぱりみんなと同じ矛盾くんだ。


私はお風呂から上がり、泡と勘違いをシャワーで流して“ぶりっ子”の私を作るためにドライヤーで髪の毛を乾かしていると高倉さんが自分用のガウンとタオルを持って洗面所にやってきた。


鏡越しで高倉さんとパチっと目を合わせると、高倉さんはお風呂に行こうとしていた足を止めて私の真後ろに来るとドライヤーを奪って私の髪の毛を乾かし始めた。


私はその間、作り笑顔しながらリップクリームを塗ったり肌の保湿をしているとあっという間に乾かし切ったのか高倉さんはドライヤーを止めた。


幸来未「ありがとう。」


高倉「…後で僕のもしてもらっていいですか?」


幸来未「いいよ。上がったら教えて。」


高倉「は、はい…。」


私は軽く頷いてお風呂上がりの水分補給をしながら高倉さんが変えてしまった深夜ドラマのチャンネルをぼやっと見ていると、髪が濡れてた高倉さんがバスルームの扉から顔出して私を呼んだ。


呼ばれた私は高倉さんの髪の毛を乾かしにバスルームに行くと、タオル1枚を巻いた高倉さんが丸椅子に座って待っていた。


意外と大胆だなと思いつつ、私は洗面台の上に置かれていたドライヤーを取り、いつもより弱めの風で高倉さんの髪の毛を優しく乾かしていく。


…この人、髪の毛染めたことないのかな。


ワックスが取れてさらにサラサラしてる気がする。


私も染めたことはないけどパーマをかけてるから少し痛んでいて毎日のミルクオイルは必須。


けれど、高倉さんの髪は何も塗り込まなくても天使の輪が出来ていた。


高倉「ありがとうございます。」


幸来未「うん。ベッド行こ。」


私はそのまま高倉さんの手を掴み、一緒にベッドへ寝転がる。


けれど高倉さんは掛け布団の中に入り、携帯で朝のアラームの準備をし始めた。


…あれ?


掛け布団の上じゃないの?


中で温まりながらしたい人?


私は布団でタオルが隠れて全裸にしか見えない高倉さんと同じように布団の中に入り、バッテリーケーブルがしっかりと刺さっているか確認している高倉さんの腕に添うように近寄るとそれに驚いた高倉さんの腕が私の胸に軽く当たった。


高倉「…ご、ごめんなさい。」


まだ純粋ぶるの?


もう演技するの辞めていいよ。


上手だけど私には響かないよ。


…もっと上手い人、見たことあるから。


幸来未「いいよ。」


高倉「…はい。」


幸来未「いいよ。」


高倉「はい…。すみません…。」


幸来未「いいよ。」


高倉「…え?」


幸来未「いいよ。」


私は潤目を作りながらずっと火照る高倉さんを見つめる。


もういいよ。


演技もしなくていいし、手以外も触れていいよ。


私のことは何も考えないで自分の思うように動いて、


「いいよ。」


そう言って、私は自分の体を高倉さんの腕に密着させて肩に自分の顔を置く。


すると、ずっと携帯に目を向けていた高倉さんはやっと私に目線を移し、顔をこちらに向けてくれた。


高倉「…いいんですか?」


幸来未「いいよ。」


作り笑顔を高倉さんに送ると、高倉さんは携帯を枕元に置きその手を私の腰に回しながらびっくりするほど優しく唇を触れ合わせた。


これで今度がなくなったけど、お互い無駄に時間を消費することはなくなった。


それでいいの。


うん。それでいい。


私はミントの味が残る高倉さんと唇を合わせながらこのホテルでいつも通りのことをしていった。



環流 虹向/23:48

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