649:23:52
いつもの終電を逃した私は駅前の改札口付近でずっと待っていた人に小さく手を振る。
幸来未「ご馳走様です。」
私はお礼を言い忘れてたことを理由にして終電のために走っていた高倉さんに声をかけた。
高倉「…え!?あ、あれ?電車は?」
幸来未「なくなりました。」
本当の最終はあと1分で出ちゃうからここの改札口からではもう間に合わない。
高倉「え!ど…、どう…えぇー…っ?」
高倉さんはまた、しなクチャシュークリームの顔をした。
これが勘違いなら早く終わらせた方が身のためだ。
それで痛い目を見たんだから今日もいつも通り早めに終わらせた方がいい。
幸来未「高倉さん。」
私は電車の最終時間を写す電光掲示板と私の存在を何度も見返す高倉さんに声をかけた。
高倉「あ!は、はい!電車ありました?」
幸来未「いえ。あの、高倉さんがよければなんですが、2人で朝までゆっくり出来るところに行きませんか?」
高倉「…え?」
私はみんなが言う“思わせぶり”をするため、どこかから吹く北風で肩をすくませながら顔を赤らめて少し下を俯き、高倉さんから目線を外す。
幸来未「嫌なら…、私は歩いて帰ります。」
そんな気さらさらないけど、ここから歩いて15分にあるナイトパックがお得な岩盤浴のお店に行って寝よ。
私は何も言ってくれない高倉さんとわざと目を合わせずに改札口からまたあの街へ行こうとすると、こんなに寒い夜なのにとても温かい手で私の冷めきっていた手を高倉さんは掴んだ。
高倉「僕も…、今電車なくなったので…。一緒に朝までいましょう…?」
と、高倉さんは少し顔を傾け、まっすぐ私を見ながら唇を緩く噛んだ。
こういうの初めてなのかな。
けど、男の人なんてみんな同じって誰かが言ってたし、その周りにいた子もみんなが頷いてた。
だからきっと、高倉さんも同じなんだ。
幸来未「うん。じゃあ、行こ。」
私は温かい手をカイロ代わりに握り、私の初めてをたくさん奪っていったみんなと行ったホテル街前のコンビニに行き、飲み物とおつまみをカゴに入れる。
もちろん、高倉さんの手は繋いだままだから高倉さんにはカゴを持ってもらって私は品物を入れる係。
私は締めにフローズンベリーをカゴに入れてレジに行き、携帯で決済を済ませてコンビニを出た。
高倉「あとで出しますね。」
幸来未「ううん。いい。」
高倉「え…、でも…」
幸来未「一応年上だからさ。さっきご馳走してもらったし、このくらい出させてよ。」
高倉さんがさっき出してくれた半分しか私は出してないけど、心残りは少ない方がいい。
高倉「…分かりました。」
ちょっと不服そうにしている高倉さんに買い物袋を持ってもらいながら私はヘアアイロンが借りられる便利なラブホに入ろうとすると、高倉さんが私を手を引いて入る寸前で足を止めた。
高倉「あ、あの…、公園とかじゃないんですか?」
幸来未「え?」
高倉「持ち込みOKのカラオケとか満喫とかそういう所だと思ってたんですけど…。」
そう…、なの…?
私が思ってた普通の人と違う。
幸来未「…嫌でした?」
高倉「いや…、じゃ…な、いです…っ、けど…。」
嫌じゃないんだ。
じゃあ普通の人じゃん。
幸来未「入ろ?大きいお風呂とベッドでのんびりしたい。」
高倉「…分かりました。」
鼻と頬が赤い高倉さんはポツリと呟くように言って私の手を少し強く握り、自分から目の前にあるホテルに入ると何故かそのまま受付に行こうとする。
幸来未「部屋、選ばないと。」
高倉「え?あ…、はい。」
私が指した空き部屋の写真と点灯ボタンを見て高倉さんは少し足を戻し、私の隣に来た。
幸来未「どこがいい?」
高倉「…分からないので幸来未さんが好きなとこにしてください。」
…本当に?
もしかして、高倉さんも“ぶりっ子“さん?
私は前に来た時に角部屋だった部屋がちょうど空いてたのでその部屋のボタンを押し、受付のおばさんから鍵を貰って相変わらず狭いエレベーターに乗り、目が合わなくなった高倉さんと一緒に部屋に入った。
環流 虹向/23:48
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