開示

「一人暮らしってどう?」


その質問に微妙と答えたケイさんはベッドでダラダラと過ごして私が帰る時間なんか気にしない。


あと10分。


そう自分に言って何回目だっけ。


ゆっくりと膨らんだり萎んだりを繰り返すケイさんの胸を抱き枕にしている私はゲーム画面の上にある時計を見るとあと30分で門限の22:30。


今出ないと門限破り確定だけど家に帰ってもしょうがないし、まだケイさんといたい。


けど、この時間を見たら聞かれちゃうだろうな。


ケイ「帰んないの?」


と、ケイさんはクエストをひと段落させると時間を確認したのかずっとぼけっと何もしないで抱きついていた私に聞いてきた。


優愛「帰るけどー…。」


頭では分かってる。


だけど、心と体が動きたくないみたいで磁石のようにケイさんにくっついて離れられない。


ケイ「親だるいの?」


優愛「…うん。」


ケイ「嫌い?」


優愛「きらーいっ。」


ちょっとポップに言わないと本当に嫌いになってしまいそうで明るい声を作った。


けど、嫌と感じた思い出がじわじわと滲み出てきて帰る気が完全に失せてしまった。


自分の部屋は南側の日当たりのいい明るい部屋。


いらないと言ったのに用意されているごはん。


温かいお風呂、ストックされてる日用品。


全部ある。


そういうのがない子がいることも知ってる。


私自身、恵まれてる子に分類されてるのも知ってる。


これがワガママって言われてしまうのも知ってる。


だけど、寂しいの。


親を演じて私のことを心配する2人から愛っぽいこと感じるのは誕生日とクリスマスくらい。


好きなものを食べて欲しい物をプレゼントしてくれる。


私の心を物で満たそうとする感じ。


それが家族用のタスクみたいで義務っぽい。


だからケイさんがくれる言動が本当の愛っぽくって嬉しいし居心地がいい。


ケイ「俺は?」


苺「好きーぃっ。」


ちょっと食い気味に好きをあげたけど、ケイさんはお返しの好きをくれない。


だから満たされていた幸せからぎゅっと絞るように寂しさの一滴が落ちそうになる。


これならさっさと帰っとけばよかったかも。


ふとその考えがよぎった頭にポンと大きい手が乗った。


その大きな手はお返しの好きをくれるように私のことを撫でてくれるのでそれだけで私の寂しさは蒸発して心の中で元気いっぱいになる。


ケイ「今日泊まってよ。」


苺「泊まるっ。」


ケイ「服、洗濯するから。」


と言って、携帯を捨てたケイさんはその手で私の手を取りもちもちの春巻きに沿わせた。


ケイ「かけていい?」


苺「…どこ?」


ケイ「ここ。」


ケイさんが指を置いたのは私が着ている胸元の開いたニットの奥にあるブラ。


けど、そこからニットに行ったり来たりする指に私は首を傾げる。


ケイ「それかここ。」


と、私の口に指を入れてきたケイさんはじっと私を見て様子を伺ってくる。


さすがにお気に入りのニットが落ちるか分からない汚れがつくのが嫌だった私は、口に入っているケイさんの指を甘噛みしながら頷き、言われた通りに行動していると最中に初めてケイさんは携帯を手に取った。


ケイ「可愛い優愛撮りたい。」


…どうしよ。


しちゃダメなやつだけど、ケイさんに嫌われたくない。


優愛「顔撮らない?」


ケイ「舐めてるとこ撮りたい。」


そう言ってケイさんはベッドに横たわると脚で私の体に抱きついてきた。


ケイ「嫌?」


優愛「嫌じゃないけど…」


前のことがあるからちょっと心配。


あの動画だって消してもらってないし、私の知らないところで拡散されてるかも。


なら…、1個も2個も変わらないっか。


優愛「可愛く撮って。」


TVの明かりが消され、街灯の淡い光の中で私はケイさんの脚の間に顔を埋めるとピカッと眩しい白い光に全身包み込まれる。


ケイ「こっち見ながらね。」


そう言って空いている片手で私の髪を耳にかけてくれたケイさんは私の頬を親指で撫でながら携帯の中にいる私を見つめる。


そんな中、私は1枚壁を隔てた向こう側にいるケイさんの目を見つめるように眩しい光の先にあるカメラレンズにずっと視線を合わせながら舌を這わしていると、ケイさんの大きな手が私の頬から離れて後ろ首を掴んだ。


ケイ「…いきそ。」


優愛「うん…っ。」


私が頷いたと同時に口の中にいたケイさんから無味無臭の液体が予想より多く流れてきて若干えづきかける。


すると、ケイさんはその顔が好きだったっぽくて首においた手でもっと私を引き寄せて喉の奥に届くよう私の口を独占すると、甘いため息をついて押し付けていた手を取った。


ケイ「見せて。」


優愛「…ぁい。」


私は言われた通り口を開けて中身を見せるとケイさんは可愛いと言ってくれた。


これの何が可愛いのか分からないけど、私はカメラ越しではなくちゃんと目を見て言ってくれたケイさんがまた好きになったのを感じた。


ケイ「飲める?」


と、私をずっと見てくれるケイさんは自分の人差し指で私の舌の上にある真っ白な液体をすくい遊びながら聞いてきた。


好きな人の要望ならと私は軽く頷いてケイさんの指を吸いながら初めて飲食物じゃないものを飲み込むと、口を開けさせてなくなったことを確認したケイさんは携帯を捨ててすぐにお茶をくれた。


ケイ「可愛すぎ。どこで教わったの?」


優愛「んー…?どこだろうね。」


私が可愛く見える角度は自撮りを極めたから知ってる。


だから誰から教えてもらったわけでもない。


ケイ「ななえちゃん?」


優愛「…違うよ。」


ケイ「そう。」


もう何もない白波さんのことを聞いてきたケイさんは私の一服と一緒にタバコを吸い、何か言いたげな口から煙を漏らす。


その横顔がまた好きを募らせたけどこの気持ちは犯罪にならなくなったら伝える。


そう決めた私はもうちょっと大人になることを進めた。



環流 虹向/愛、焦がれ

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