食物

私と会った後、ケイさんはあの友達と一緒にノリで中華街へ行ってきたらしい。


その中で冷凍の焼き小籠包を買ってくれたのは、私と食べ歩き気分を味わいたかったから…?


そんな淡い期待を持ちながらフライパンの前からずっと離れないケイさんの隣で蒸される小籠包をガラスの蓋越しに見ていると、ケイさんは暇だったのかこの間のように外ももを撫でてきた。


ケイ「制服着てほしいな。」


優愛「持ち出し禁止って言ったじゃん。」


今は安全のために2週間お店に出入り禁止だし、あのお客さんは系列店舗全て出入り禁止というだいぶ重い刑が警察を挟む代わりにくだされた。


ちょっと逆上される不安はあっても他の女の子にもあんな怖い思いをしてほしくなかったから私もそれに納得して、少しの間身を隠すことにした。


まあ、ミチミチに詰め込んだシフトで稼ぎ過ぎてたし、そろそろ調節をしないとって思っていたところだからちょうど良かったのかも。


ケイ「買ったら着る?」


と、ケイさんは暇を持て余している指先を外から内へ移動させると私のスカートをたくし上げながら聞いてくる。


優愛「プレゼントなら別のが嬉しいけどなぁ…。」


誕生日なんかお互いに知らない。


今もお互いのフルネームさえ知らない。


だからということもないけど、恋人のイベントごとは全部無視。


そういう関係だから貰ったと認識があるのは、ケイさんが友達と旅行に行ったと教えてくれた1袋のひと口チョコくらい。


だから初めての残るプレゼントがチャイナドレスなんて嫌。


ケイ「メイド?ナース?ポリス?」


優愛「…違うの。」


ケイ「アニコス?」


優愛「違う…ぅ。」


ケイ「猫?」


なんでコスプレ基準なの?


もういいや。


私はパンツを脱がされる前にベッドに戻って1人で暇を潰していると、出来立てホカホカの焼き小籠包をフライパンのまま持ってきたケイさんは待っていた私を呼ぶ事なく自分のお皿にひとつの小籠包を乗せた。


優愛「食べたーい。」


ケイ「寝たまま食うのは王族だけ。」


…怒ってる?


ちょっと冷たいケイさんの雰囲気に焦った私は飛び起きてピタッと寄り添うように隣に座る。


すると、ケイさんはぷちゅっと小籠包の中心に箸を挿し、少し中の熱を冷ますと薄くて幅広な自分の口にぱくっと全て入れてしまった。


優愛「美味しい?」


私は咀嚼音をさせずに味を楽しむケイさんの顔を覗き込むようにじっと見ていると、突然頬を鷲掴みされた。


優愛「なぃっ…」


ケイ「くち。」


と、少しこもった声のケイさんは顎で私の口を指したのでちょっと口を開けてみると、生温かくてとろみのついた中華スープがケイさんの口から私へ流し込まれた。


ケイ「美味しい?」


なんだか嬉しそうなケイさんを見て私はすぐに頷き、もっと口角を上げてもらう。


パリパリじゅわわな小籠包を食べるつもりでここに来たけど、プチプチとろろんな小籠包をケイさんの口からしかもらえない。


それがちょっと不満だったけどケイさんが楽しそうならいいや。


1個もまともに小籠包を食べられてない私は口渡しがしやすいようにケイさんの膝の上に乗っていたけど、8個あったフライパンの上には最後の1個しかなくなった。


ケイ「食べる?」


と、最後の最後でケイさんは私にぬるい小籠包を差し出す。


でもなんだかお腹いっぱいになった私は首を振って最後にもう1回キスを待っていると、ケイさんは小籠包を口に入れると少し雑にガラステーブルの上にお皿を置き、すぐに私の頭を自分に引き寄せて唇を合わせた。


なんで雑に扱われてるのに好きが増えるんだろうな。


そんなことを考えながらケイさんからの中華スープを待ってると皮が剥がれた肉団子が丸々1つ私の口の中に入ってきて体がぎゅっと驚く。


けど…、美味しい…ぃ。


肉汁たっぷりだった中華スープには入っていない旨味が肉団子から溢れてきて頬が溶けそうになっていると私が咀嚼しやすいようにケイさんが少しだけ口を離し、親指で垂れたスープを拭ってくれる。


優愛「美味しいね。」


もぐもぐしながらそう言うとケイさんは鼻で笑い、私の口に美味しい鼻息をかけた。


ケイ「また食べたいね。」


それはここで?


それとも中華街で?


優愛「いろんなの食べたい。」


私はそれとなく食べ歩きがしたいのをケイさんに伝えて後味を交換し合うようにまたキスをした。



環流 虹向/愛、焦がれ

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