情的
「お別れ会は俺ん家で。」
地獄のお誘いをされたWプールデートでの話に私はみんなと一緒に喜べなかった。
8月の下旬にステイホーム先に引っ越してしまう桃樹さんはもう引っ越し準備は済んでいるそう。
だから今日は物が少なくなった桃樹さんの家じゃなくて悟さんの家、というより実家。
今日は誰もいないから好きに使っていいと言われたらしいけど、ちょっと抵抗がある。
けど、それは私のせいだから。
そう言い聞かせて私はみんなと一緒に夜ご飯を買ってお別れ会と言う名のパジャマパーティーをする。
本当のお別れ会は2人でと七星ちゃんの計らいで行ったパーティーは家に入る前はドキドキだったけれど、夜が深まるにつれてワクワクが勝ってきた。
そんな私はBGMでかけられている音楽に合わせてババ抜きが下手くそな桃樹さんを応援していると、桃樹さんはやっぱりドベになって主役なのにコンビニへ買い足しに行くことになった。
私は彼女として一緒に付き合うことにしてパジャマの上に悟さんのジャージを借りると桃樹さんは少し不服そうにジャージのファスナーを上げた。
桃樹「危ないからいいのに。」
優愛「一緒にいたいもんっ。」
あと少し。
いい彼女だったと1人くらいには言われたいから、あと少しだけ秘密を隠そう。
ぐっと気を引き締めるようにサンダルのマジックテープを引っ張って留めていると、玄関が開いた音がして私は一瞬にして全身に鳥肌が立つ。
「…うはぁ、らむちゃんだ…ぁ♡」
と、お酒臭い聖さんが顔見知りの美容師さんに肩を借りて家に入ってきた。
「すみません、ここって…」
桃樹「聖さんの実家です。間違ってないですよ。」
そう言って桃樹さんは私の手を引き、抱きついてこようとした聖さんから避けて逃げるように外に出た。
桃樹「酔っ払いはやっぱり怖いね。」
優愛「…うん。」
桃樹さんって聖さんと知り合いなんだ。
まあ、智さんと友達だし、こうやってたまに出くわしたりするんだろう。
その時、遊んだ女の子の話とかされたのかな。
それか興味持ってる女の子。
“らむちゃん”とか。
SNSのアカウントも写真も消してないし、そのまんま。
ちょっと際どい写真載せて『可愛い』と『好き』を釣るアカウント。
誰でも見られるあのアカウント、いらなくなった時にすぐ捨てればよかった。
私は全てを中途半端に残してしまう自分に嫌気が差していると、桃樹さんはコンビニの前でもないのに足を止めた。
桃樹「優愛が何してても僕は怒らないよ。」
突然、桃樹さんは私の潤む目を見てそう言った。
桃樹「何してても…、好きなことしてていいよ。」
それ、嘘言ってる時にするやつ。
私は赤い耳を隠すように耳たぶを摘んだ桃樹さんを見て、この間のことを謝りたくなる。
桃樹「僕とだけの特別が1個あれば嬉しい。」
優愛「…うそ。」
桃樹「まあ…、あと1週間もないから言うの遅すぎたかなって思ってる。」
優愛「本当に…、別れるの?」
私からこんな質問をする資格なんてない。
けど、聞きたくなるほど桃樹さんの存在はいつの間にか私の中で大きくなっていた。
桃樹「いつ帰ってくるか分からない彼氏、待ちたい?」
その質問の仕方、ずるくない?
即答出来ない私が待ちたいって言っても、桃樹さんの芯は変わらない気がする。
優愛「待ってて言ってくれるなら待つ。」
即答出来なかった私が絞り出した答えにお付き合いを始めた時と同じ笑顔をした桃樹さんはずっと握っていた私の手をしっかりと握り直した。
桃樹「待たないでいいよ。」
…やだ。
その答えがひとりぼっちの私を想像させて涙が出てしまう。
桃樹「待たないで、いろんな所に行って、いろんな人と出会って、いろんな事をして、お互いもっと大人になってから待ち合わせしよう。」
そう言ってくれた桃樹さんは私の溢れる涙を自分のロンTを引き延ばして拭ってくれる。
優愛「大人って…、どんな人が大人…?」
私はみんなが教えてくれた漠然とした“大人”を思い出し、桃樹さんからはまだ聞けてなかった事を今更思い出す。
桃樹「自分の知らない世界をいっぱい知ってる人、かな。」
その回答に私はあやふやだった“大人”が明確になり、新たな世界が開かれたように頭の中でキスもままらなかったあの日の春風が通った気がした。
桃樹「きっと、大人と子どもってそんなに差はなくて、何をしてきたっていう経験を多く持ってる人が『大人っぽい』って言われてる気がするんだよね。」
優愛「…そう、だね。」
桃樹「うん。だから、優愛も僕の知らない
優愛「いく…、絶対行く…っ。」
桃樹「行こう。その年に出来た真新しいBAR見つけに行こう。」
優愛「約束ね。」
この人は『またね』と言っても絶対守ってくれる。
そう信じられる人は今のとこ、桃樹さん1人だけ。
だからしっかりと指切りげんまんで約束をして、1週間後4年間お別れする桃樹さんとしっかりと言葉で別れ、初めての彼氏との半年間の恋愛を終えた。
環流 虹向/愛、焦がれ
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