屈従

桃樹さんとの初めては私の知ってるものとは思えないほど、あっという間に終わって『あっけない』という言葉が1番似合う感じがした。


けど、そんなこと誰にも言えないし、文句はない。


ただただあっけないだけ。


数えられる程度しかまだしていないけど、あの2人とは時間の掛け方が違くて愛が欠けてる気がする。


そう、気がするだけ。


そうやって自分に言い聞かせても、私の中では桃樹さんとの愛渡しが上手くいっていない気がして不安になる。


好きって思うなら体を求めるのが当たり前。


それを私が目指している“大人”に教わったのに、大人になった桃樹さんは会っても毎回はしてくれない。


手を繋いで、たまにキスして、たまーに抱き合う。


もう3ヶ月もない恋人期間、終わりが見えてくると何故か私の好きは募って離れ難くなる。


けど、それを桃樹さんは気づいてくれないし、3ヶ月就労記念イベントがあった汗だくな私にも気付かずに今日もデートへ行く。


桃樹「温泉好きだねー。」


優愛「夏のベトベトする感じ苦手だから。」


私はどっかで聞いたことある台詞を吐いて男女でも入れる岩盤浴付きの温泉施設でのんびりしてると、一瞬だけだけどあの匂いがした。


「「プール…」」


お互いに塩素の匂いを感じたみたいで同じように今度のデート先を提案しようとしていた。


それが他の男の人とはなかったことで私は嬉しくなり、ノーブラだったけど桃樹さんに抱きついて体を密着させる。


すると桃樹さんはそれに答えるように私の頬にキスして抱きしめ返してくれる。


普通じゃない私の愛情表現に慣れ始めた桃樹さんは私の口角が上がることをぽつぽつと覚えていってくれて、とってもいい彼氏になってくれている。


なのにまだ一緒じゃない気持ちがあって本当にたまにだけど、いつも持ち歩いているいちごミルクがなくなった時、不安になる。


何度も桃樹さんとデートを重ねてもこのいちごミルクのアメを手放せない私は桃樹さんの好きなミニ瓦煎餅を代わりに入れることもあった。


けど、何だか物足りない。


その口寂しさと気持ちが相まって押してはいけないボタンを押してしまう。


すると、数分後に求めていたものがやってきてずっと留まっていた気持ちが喉を通って口に出る。


優愛「久しぶり。」


ひとりの日、私はあのインターフォンを押して前にはなかった段ボールまみれになっている玄関を通してもらい、いつものようにベッドに座るとそのままケイさんは私を乱暴に押し倒して愛いっぱいなことをしてくれる。


それが嬉しくて、楽しくて、気持ちよくて。


浮気者の私は久しぶりの事にちょっとだけ気まずい雰囲気を出して、ケイさんの体に当たらないよう使い終わったベッドの上で少しだけ離れる。


ケイ「忙しかったの終わった?」


と、突然起き上がったケイさんはベッド脇に座り、私のお尻の谷間を撫でながらタバコを吸い始めた。


優愛「…終わってない。」


ケイ「ここ来てていいの?」


優愛「よく…、ない。」


私はケイさんのタバコの匂いがつかないうちに家へ帰ろうと体を起こそうとすると、ケイさんは私の脚を引っ張り少し乱暴にベッドへ戻した。


ケイ「もっとよくないことしようよ。」


こっち見ないで。


優愛「よくないことって?」


喋っちゃダメ。


ケイ「さっきよりも気持ちいこと。」


誘わないで。


優愛「もう疲れた。」


乗っちゃダメ。


ケイ「優愛は横になってればいいよ。」


名前、呼ばないで。


優愛「もう帰ろっかなぁ。」


ケイ「まだダメ。」


もう、ダメ。


ちゃんとしたいい子の優愛わたしが保てない。


ケイ「面白いの買ったから。」


そう言って吸いかけのタバコの火を消したケイさんはベッド脇の隙間から大きなキノコみたいなものを取り出して私の脚を広げた。


ケイ「ベッド、いっぱい汚していいよ。」


ケイさんは私の体をおもちゃで遊び、おもちゃのように少し雑に扱う。


それが私にとってはちょうど良くてそれが自分が欲しかった愛だと知った。



環流 虹向/愛、焦がれ

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