証明

作ったはいいけども何もしてこない桃樹さんは私の隣で楽しそうにトランプ2枚を持って口角を上げている。


私はそんな桃樹さんから1枚トランプをもらって勝負に勝つ。


優愛「はい、お泊り決定。」


桃樹「はいはい。今日ビーフシチューって言ってたから…」


と、桃樹さんが夜の予定を話し始めると下の階からお姉さんの元気な声が聞こえた。


「パパとママと私で呑み行ってくるねー!!」


桃樹「…もう、やめて。」


嬉しい報告のはずなのに桃樹さんは嫌そうな顔をして赤い耳を隠すと体を縮こめて私よりも薄くなってしまう。


優愛「やったね。」


桃樹「今日はそういうんじゃないでしょ。」


…桃樹さんって男?


というより、彼氏なの?


私はキスもしたいし、もっと見える好きが欲しい。


なのに桃樹さんは友達でも出来る、手を繋ぐことしかしてくれない。


それが愛不足な感じがしてとても寂しい。


ケイさんのメッセージを『忙しい』という理由で無視した5通目の今日、そろそろ好きな人として私のことを愛してほしい。


気持ちの面と身体の面で。


そうしたらこの迷いはなくなるはずのに。


けど、桃樹さんはなにもしないことが愛情表現なのか、私と家でのんびり過ごせるだけで嬉しいみたいで家族がいなくても、私がお風呂に入ってベッドを借りても、隣には寝てくれない。


桃樹「おやすみー。」


そう言ってなにもしてくれない桃樹さんは部屋の電気を消し、月明かりを差し込ませるようにカーテンを手のひら1つ分開けてソファーに寝転がった。


優愛「…なんで。」


桃樹「なに?」


と、桃樹さんはモソモソと動いていたからか私の声が届かなかったみたいで聞き直してきた。


優愛「なんでもない。」


桃樹「明日は9時くらいに帰ろうね。おやすみ。」


どんだけ寝たいんだよ。


私は初めて桃樹さんにイラついたけれど息を潜め、桃樹さんの寝息が聞こえ始めてからベッドから起き上がる。


歯磨き、OK。


リップクリーム、OK。


桃樹さん、OK。


私は寝ている桃樹さんの隣に沿うように座り、月で顔だけ明るい桃樹さんの長いまつ毛に数秒見惚れているとそのまつ毛がゆっくりと上がり奥の瞳が驚いた。


桃樹「…っえ。どうしたの。」


優愛「ちゅーするの。」


驚く桃樹さんに私は顔を近づけ、ギリギリのところで止める。


けど、桃樹さんは驚いたままで白波さんやケイさんのように待ち受ける顔は一切しない。


優愛「初めては桃樹さんからがいい。」


そしたらキスの魔法でずっと私をがんじがらめにしている過去が溶けてなくなりそうだから。


優愛「おねがい。」


私の息がかかるほどそばにいる桃樹さんは真っ白な月明かりの下でほんのりピンクになっていたけど、唇を絵合わせするように優しく当てた。


桃樹「…初めて?」


優愛「初めて。」


桃樹さんとは。


人生では初めてではないけど、嘘じゃない。


桃樹「僕も初めて。」


と、桃樹さんはふにゃっと笑って恥ずかしいのを共有しようとしてくる。


初めてがこの人だったら…、こんな私にはならなかった。


きっと幸せも愛も今までだけでいっぱい感じられたはずなのに、今の私はキスしてもらってもまだ満たされない。


ふと、その思いが頭を過り、少し目が潤んでしまったのを感じた私は桃季さんに見られないよう目を閉じてもらうためにキスをする。


それに照れる桃樹さんは少し抵抗するように私の肩をつかんだけれど私はその手を押し返すように桃樹さんの上にまたがり、抵抗されてもいっぱい抱きつく。


桃樹「…優愛、寝よう?」


優愛「うん、ねる。」


私は自分の脚の間にある桃樹さんの下腹部を布越しに撫でて素直な反応を手のひらで感じ、少し寂しいのを埋めてもらう。


桃樹「ね、寝るんだって…っ。」


優愛「一緒にねるの。」


同じ言葉でも違う意味を伝え合う私たちは布を剥ぐ剥がないで交戦していると、カチャリと金属音が聞こえた。


桃樹「…帰ってきたから。」


優愛「でも、どうするの?」


私は一瞬隙を見せた桃樹さんの布の中に手を入れ、1番熱い場所に触れる。


すると、桃樹さんは急に大人しくなり腕で私の胸を弱く押した。


桃樹「今日じゃないよ…。」


と、赤くなった耳をもう1つの手で隠す桃樹さんは今度行く温泉旅行でソレをする予定だったそう。


だけど、それじゃあ今の私の寂しさは埋められない。


優愛「予習…、する?」


私はくすぐるように桃樹さんをそっと撫でると、桃樹さんは腰が抜けたかのようにふるふると体を震わせた。


桃樹「…い、いや…ぁ、家族いるし…っ。」


全く余裕のない桃樹さんは腕だけで抵抗するけれど、目で続けたいと言ってる気がする。


それ。


それが好き。


私を求めるその目が私の恋を長持ちさせる。


優愛「声、我慢してくださいね。」


私は愛を伝え合う口を桃樹さんの口元から遠ざけて、愛を注ぎ込んでもらう栄養補給チューブを口いっぱいに入れ、柑橘の入浴剤の匂いが混ざる愛をいっぱい貰って満足。


うん、満足。


それが私の1番嬉しいことだったはず。


…なのに、何かが違う。


けど、その違うものが分からない私は一緒のベッドで桃樹さんと眠ったけど、あの満足感は得られなかった。



環流 虹向/愛、焦がれ

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