他者
可愛いと言われたいと言ったけど、この可愛いはいらない。
そう思ったのは家庭教師の女に何度も白波さんが教えてくれたヘアセットを耳鳴りがするほど褒められるから。
私はただ、ケイさんに会えない間、自分でも出来るように練習してただけなのにこんなにうるさく言われたら冬休みから日課になったヘアセットもやめようかと思う。
けど、今日は華金ってやつ。
智さんと野中先輩の受験もひと段落したらしく、七星ちゃんも含め久しぶりに4人で遊ぶことになってる。
優愛「おすすめのバイトってある?」
私は七星ちゃんがいなくなったカラオケのバイトにあまり魅力を感じられなくなり、別のバイト先をなんとなく探したけどやりたいと思えるものはなかった。
「バイトねー…。」
と、家庭教師のミサさんは私の答案に赤ペンで◯×をつけながら思考を巡らせる。
ミサ「お金稼ぎたいの?」
優愛「特に欲しいものはないけど、一応ね。」
ただ、この家にいる時間をなくしたいだけ。
それを素直に言える相手ではない。
だから私は貯金するということでミサさんにおすすめのバイトを教えてもらう。
ミサ「カフェは?」
優愛「ドリンク覚えられない。」
ミサ「あれだよ?カフェって言ってもメイドカフェとかそういうコンセプト系のやつね。普通のとこよりも稼げるよ。」
…メイド?
私は自分がメイド服を着てるところを想像してちょっと鳥肌が立ってしまうと、ミサさんは採点を終えて私に差し出した。
ミサ「正答率上がってる。この調子ならもう少し上の大学も目指せると思うよ。」
優愛「いいよ。無理して入ってもついていけなさそうだし。」
無理して合わせてもボロが出る。
それはこれまでの友達付き合いで分かっているからわざわざ上は目指さない。
ミサ「そう?もったいないけど優愛ちゃんがそう思うなら内緒にしとくね。」
と、私が親嫌いなのを雰囲気で感じ取っていたミサさんは優しく笑い、膨大な量の宿題も差し出した。
ミサ「次は1週間後だから頑張ってやってね。」
優愛「…旅行でも行くの?」
私は初めてこんなに日を空けるミサさんに疑問を持つったので気のままに質問してみる。
ミサ「そう。里帰り?ってやつ。」
そう言ってミサさんはタートルネックの下に隠していたネックレスを私に見せつけてきた。
優愛「指輪…?」
私は雫型のチャームとは別に通された指輪にクギ付けになる。
ミサ「うん。来年結婚するんだーっ。」
…あっそ。
ただの自慢話か。
優愛「おめでとー。私にブーケちょうだい。」
ミサ「参加券3万だよー。」
優愛「高すぎ。」
ミサ「バイトがんばっ!」
そう言ってミサさんは自慢をするだけして日が長くなってきた夕方に帰っていった。
私はその背中を見送り、出かける準備をしながらカフェのバイトを探し、今度1回だけ面接を受けることにしてみんなと待ち合わせしている私の最寄り駅に向かった。
環流 虹向/愛、焦がれ
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