慾情

同化

みんな私と言うよりも、私の締まった体と高校生というブランドにただ惹かれただけなんだと気付いてから一気に全ての気持ちが冷めてしまった。


しかも、バイト先にはラブラブ出来立てホヤホヤのカップルがいるし、遊べる友達もいない。


なので私はなるべく遊ばずに貯金していたお金を使いにあの街を散策してみる。


けど、買いたいものはないし、1人でどこかのカフェに入る勇気もない私はテイクアウト出来るフルーツジュースだけを買い、そばにあったベンチで歩き疲れた足を休ませる。


あーあ、なんか全部ダメになっちゃったなぁ…。


彼氏が出来たことないのに、手を繋ぐのも、キスも、体を合わせちゃうのもやっちゃったよ。


これから普通に恋して好きな人と付き合ったり出来るのかな。


その時には今まであったこと、全部忘れるくらい楽しいこといっぱいかな。


そんなことをぼやっと考えていると、視界もぼやっとしてきて視界の全部が歪み、耳から楽しげなみんなの声だけが情報として入ってくる。


こんなこと、友達かなんかに相談したら『大丈夫だよ』って返されるだけか、ネタにされるだけでいいことはない。


今友達がいないことがいいことなのか、と究極の幸せを見つけた私は大きなため息が出る。


人と関わらないことが一番の幸せと安全なんだと理解したのでこれからは1人で学校に行って、真面目に単位を取ろうと決めた。


その気合いを入れるために一番暇と思われる高2の夏休み中旬、私は自分の偏差値に合っていると親に言われた大学に1人で見学をしに行き、全く魅力のカケラもない灰色の学校案内をしてもらい、いらないパンフレットをもらった。


これで今日のやることリストは完璧だから今日は気分転換に近くにあるスーパー銭湯にでも行こうかなと、携帯のマップを見ながら歩いているとふと人が視界に入った。


私は軽く顔を上げ、少し向こういる人とぶつからないように歩こうと道の端に行こうとするとその人も私と同じ道の端へやってくる。


それを2、3度繰り返して私は気が合い過ぎる人の顔を見てみるとまたしてもスーツを着たケイさんがいた。


ここってケイさんが通ってる学校?


けど、ケイさんの家からだとちょっと来にくい場所だけどな。


そう思っているとケイさんはこちらに向かって手を振ってきた。


外でそんなことをしてくれるとは思わずに驚いてしまっていると、固まっている私の背後から1人の男の人がケイさんに駆け寄り楽しげに話し始めた。


あー…、まあ…、そうだよね…。


私服と言っても雰囲気が大学生に追いついていない私に安易に手を振ってくる人ではない。


そんなことは分かってたのに。


なんだかすごく辛い。


最近、会ってなかっただけにだいぶ気持ちがえぐられる。


ちょっとだけ涙腺が緩む私は存在に気づいてくれなかったケイさんの横をわざと通ると、一瞬手を触れられなにかを握らされたと同時にケイさんは仲よさそうな友達とランチをしに校内へ向かった。


1人残された私は手の中にあるものを見てみると、サクサク食感のいちごミルクの飴だった。


…なんでこんなの持ってるんだろ。


可愛い。


私は新品とは思えないシワがある包装紙を外し、口に飴を放り込んでまた携帯に視線を落とすと久しぶりにケイさんからのメッセージ通知が届いた。


それだけで私は脳みそも口の中もとろけそうになって、溢れかけたよだれを吸ってから中身を見てみる。


『明後日、ひま?』


と、また家デートのお誘い。


どうしようかなぁ…。


暇だし、まだ好きだけど脈なしって分かってて一緒にいるのってすごく辛いんだよな…。


私はその一言メッセージを頭の中でぐるぐると巡らせて、なんとなく自分の家に帰る電車に乗り、最寄り駅にあるコンビニになんとなく寄って買ってしまったいちごみるくのパッケージを見て返事を決める。


『ひま。』


やっぱり、好きな人が私に会いたいと思ってくれるなら会いたい。


それが体目当てでも、私の体だから私自身が会いに行く権利を貰えてるからいいの。


私のことが好きじゃなくても、抱きたいって思ってくれるならそこらへんにいる女の子よりは好きってことだよね。


そう自分に言い聞かせて、私は買ったいちごみるくで今日のケイさんを補充するように喉を潤した。



環流 虹向/愛、焦がれ

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