屈辱

なんだかなぁ…。


ケイさんは私のこと好きとは思ってないっぽいし、白波さんは高校生の私と付き合いたいって言うし、どうすればいいんだろう…。


私は夏休み前のテストなんかよりも頭を使う人間関係に時間を使っていると、先にテスト週間が終わった七星ちゃんが少し前に入った新人と片付けを終えて受付に戻ってきた。


優愛「ありがとー。」


七星「うん。さとしは先に休憩入っていいよー。」


哲「どーも。」


と、私がこけかけた時に言っていた口癖をまた言った哲さんは受付裏にあるスタッフルームに入っていった。


七星「歳は1個上なのにここでは後輩って不思議な感じだよね。」


優愛「だねー。なんかこの感じ慣れない。」


私たちは3年生の先輩を新人の後輩として扱うのがとても違和感を感じる。


七星「親睦深めるためにお祭り誘う?」


と、七星ちゃんは2人で行く予定だった2週間後の夏祭りに絶対来てくれなさそうな智さんを呼ぼうとする。


優愛「女2の男1で、しかも後輩って気まずくない…?」


七星「じゃあ2対2?」


優愛「その方が現地解散してもそんなに気使わなくてよさそう。」


私がそう言うと七星ちゃんはすぐにスタッフルームの扉を開けて、哲さんのアポを取った。


七星「行くって。浴衣着てく?」


優愛「そんなに気合入れる?」


七星「お祭りは楽しんだもん勝ちじゃん!」


私は七星ちゃんの押しに負けて白波さんとのデートで使う予定の浴衣を着て、夏祭りに行くことになった。


七星ちゃんと私は人混みが溢れる駅前を離れてたくさんあるカフェよりも空いていたファミレスに入って一息つく。


七星「最終日だから人いっぱいいるねー。」


優愛「私に合わせてもらったばっかりに申し訳ない…。」


七星「哲も同じ学校なんだから変わらないよ。」


元は私と2人だけの予定だったのにそんなことを言ってくれる七星ちゃんがまた好きになり、今度から積極的に遊びに誘おうと思っていると哲さんが友達を連れて私たちの目の前に座った。


その友達を見て私はどうしても息が詰まり、七星ちゃんに続いて自己紹介が出来ない。


哲「…こっちは佐々木さん。人見知り気取ってる。」


と、哲さんは私の代わりに隣に座っている聖さんへ自己紹介してくれた。


聖「こんな可愛い子とバイトしてるなんて幸せ者だなー。」


哲「セクハラしてくる兄貴だから気をつけて。」


…お兄さん。


私は服装や髪型のせいで全く分からなかったけれど、何度もキスされた唇と眉尻が上がっている目元がよく似てることに気づく。


けれど、聖さんのことを白波さんのおかげで忘れていた私は2人のその後の関係性がとても気になって仕方がなくなる。


七星「じゃあジュース飲み終えたら行こっか。」


その七星ちゃんの一声で全てが動き出し、自然なおしゃべりが出来てしまう七星ちゃんと哲さんがペアになり、私と聖さんはその後を追うように歩く。


それが今までの夏祭りで史上最高に楽しめない夏祭りになってしまい私は1人で帰ろうかなと思っていると、腰に腕を回された。


聖「あいつ、優愛ちゃんのお友達が好きなんだって。」


…ああ、だからあんなに楽しそうなんだ。


私は唯一この状況から救いの手を差し伸べてくれそうだった哲さんを頼る気持ちが一気になくなる。


聖「2人のためにバラけない?」


優愛「…帰ろうかな。」


私はそっと聖さんの手から離れようと少し早歩きをするけれど、下駄とサンダルではどうしても勝てずに追いつかれてしまう。


聖「俺らは俺らで楽しめばいいんじゃん。前みたいに。」


そんなことだろうと思ったよ。


けど、私の不注意が今のピンチを生み出してる。


だからここでちゃんと断らなきゃ。


優愛「好きな人いるし、終わりってなったじゃん。」


聖「でも、写真はあるしなぁ…。」


と、聖さんはフォトアプリを開き、さっき4人で撮った写真と私の顔以外が写ってる写真フォルダを見せてくる。


聖「ネットの奴なんか、顔1枚とそれに似合った体があれば妄想が膨らむんだよね。」


夏がやっと始まったところなのに私の人生終わりかけ。


これでどう楽しめばいいんだろう…。


聖「暑いのも他人がかいた汗が俺の体に触れるのも嫌いだからここ出ようよ。」


優愛「……分かったよ。 ちょっとしたらね。」


私は聖さんにこれ以上抵抗するのを辞めて、2人のためにお祭りの会場から離れることにした。



環流 虹向/愛、焦がれ

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