第69話

来たときとは違い、志芳さんはにこにこ笑いながら帰っていった。

あれが本来の彼女なんだろう。

早く、いつもあれになれるように、祈ろう。


「……抱きつかれていましたね」


「うわっ」


ぼそっと暗い声が頭上から降ってきたかと思ったら、覆い被さるように後ろから漸に抱きつかれた。


「鹿乃子さんは私のものなのに」


まるでつけられたにおいを消すかのように、漸が身体を擦りつけてくる。


「鹿乃子さんも締まらない、嬉しそうな顔をしていました」


「えーっと、……漸?」


気づいてはいた、志芳さんにヤキモチを妬いているんだろうな、って。


「鹿乃子さんは私のものです。

誰にも渡しません」


「その、志芳さんは女の子ですし……」


「いまの時代、男だとか女だとか関係ありません」


そうだけれども!

じゃあ、私と仲のよい女子に全員、ヤキモチを妬くのか!?


「あんな小娘に、私の鹿乃子さんを渡したりしませんよ」


「漸、……てばっ……」


漸の手がパーカーの裾から入ってくる。


「鹿乃子さんは私のものです……」


「あっ」


甘い重低音で耳を犯しながら、れろりと形をなぞるように舐め上げられたら堪らない。


「ここ、玄関だから……」


「だから?」


問題ない、とばかりに漸の手がさらに服の奥深くへと侵入する。


「私は漸のものだから。

誰のものにもならないから。

心配しなくても大丈夫なので、ここでのえっちはダメです」


渾身の力で顔を上げ、めっ、と漸を睨む。


「……鹿乃子さんに怒られてしまいました」


しゅーん、とみるみる漸が萎れていく。

はぁっ、とため息をつき、ちょいちょいと手招きした。

顔を近づけた漸の耳もとに、口を寄せる。


「……夜。

いっぱい、ラブラブしましょう?」


「鹿乃子さん!」


思いっきり漸が私を抱き締めるから、足が宙に浮く。

夜は当然ながら三日ほど会えなかったのもあり、……文字通り死ぬほど、愛された。

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