第67話

あとはひたすら、もひもひ志芳さんはお菓子を食べていた。


「ミルクティを淹れなさい。

砂糖多めの甘めのよ」


「はいはい」


なんだか彼女に同情したのもあって、苦笑いで立ち上がる。

こうなると紅茶をストレートで飲んでいたのも、もしかしてキャラ作りだったんじゃないかって疑惑が持ち上がってくる。


「あ、案外、庶民菓子も好きなのかも」


ついでに私の好きな、大袋のチョコブラウニーも出した。

安いのにチョコを食べているみたいに濃厚なこれは、私の大好物だ。


「これも美味しいわ」


またもひもひ食べている姿はこう……うさぎなんかを思い起こされて、可愛い。


「志芳さんって幾つなんですか?」


「二十歳」


「二十歳……?」


え、年齢不詳で高校生くらいにも見えるけど、少なくとも私よりは上だと思っていたのに。

てか、二十歳にしてはしっかりしてない私が二十歳の頃ってこんなに考えていなかった気がする。


「……志芳さんって、凄い」


「別に凄くないわよ」


いやいや、絶対、凄い。

こんな人が家に縛られているなんて、可哀想だよ。

しかも時代錯誤な良妻賢母なんて求められていそうだし。


「その服も可愛いですよね」


ピンクのフリフリゴスロリ服は、ミニハットも同じデザインで揃えてあった。

スカートの膨らみ具合からして、パニエもちゃんと穿いているんだろうな。


「これ、全部作ったの。

……自分で」


「嘘、ほんとに?」


頬を薔薇色に染め、彼女が頷く。

なんだこの、素直に……なったのかはわからないが、急に可愛くなった生き物は

「うわっ、そんな滅茶苦茶可愛いの作れるなんて、凄いですよ!」


「……ほんとに?」


目をうるうると潤ませ、上目で彼女が私を見つめる。


「はい。

全部、自分で作ったなんて凄いです」


ぱぁーっ、と嬉しそうに彼女の顔が輝く。

もしかしていままで、褒められたことがなかったんだろうか。

こんなに凄いのに?


「お父様にもお母様にも、荒木田家の子女がそんな格好みっともない、って」


「それは酷いです」


あー、漸も同じこと、言われていたなー。


「そんななんの得にもならない裁縫などにうつつを抜かさず、一カ国語でも多く覚えろ、って」


「なんの得にもならないって、自分を可愛く飾れる服を作れる時点で得ですが?」


この子は、私と出会う前の漸と一緒なんだ。

家に縛られ、逃げられず、やりたいこともできない。

彼女に、なにもできない自分がだんだん、歯痒くなってきた。


「……私はあなたがとても気に入ったの。

不幸にしたくない。

だから、……漸と別れてください」


真摯に、彼女があたまを下げる。


「志芳さんの気持ちは嬉しいけれど、私は漸と絶対に別れません」


予想どおりだった、彼女が私たちを別れさせたい理由。

それでも、優しい彼女の気持ちを踏みにじっても、私は漸と、別れない。


「でもそれだと、あなたが不幸になるのよ」


彼女の悲痛な声が、静かな午後の室内に響く。


「不幸になんかなりません。

言ったでしょう?

漸を奪う敵はたとえ荒木田総理でも、戦って倒すんです。

だから、心配はご無用です」


「お父様がそんなに簡単に、倒れるわけないじゃない……!」

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