第46話

「んじゃ、また明後日」


「今日はありがとうございました」


店を出て立本さんとは別れた。

軽く手を振って去っていく彼を見送り、通りでタクシーを拾う。


「一斗と鹿乃子さんが仲良くなってくれてよかったです」


タクシーの中でも漸はご機嫌だ。


「これでもう、なんの心配もいりません」


本当に漸は嬉しそうで、私まで嬉しくなってきた。


「そうですね」


いままで我慢していた分、これからは漸のやりたいことをやればいい。

そのためだったら私はなんだってする。


今日は真っ直ぐ、マンションへ帰った。


「ベッドとかなくても問題ないと思っていましたが、やはりあるといいですね」


部屋で漸は、半ばベッドへダイブした。

そんなふうにはしゃぐ彼は、珍しい。


「鹿乃子さん」


肘枕をし、空けた空間を漸がぽんぽんする。


「えっと……。

漸、もしかして、酔ってます?」


などと言いながらも、着替えもせずにベッドに上がり、その空間に収まった。


「私が?

酔う?

あれくらいで?」


ええ、私は飲んだ量が少ないのでその分はカウントしないとしても、ふたりで白ワインを二本分くらいなら漸が酔うなんて普段はない。

しかしながらうっとりと私の髪を撫でる漸のテンションは、あきらかにおかしかった。


「絶対に酔ってますって。

このまま寝るのはいいですが、先に着替えませんか?」


そうじゃないと漸はこのまま寝落ちしかねない。


「そうですね……。

おっと」


先にベッドを下りた漸がよろける。

うん、あれは絶対、酔っている。


化粧を落としてベッドへ行くと、すでに漸は寝息を立てていた。


「珍しい、私より先に寝るなんて」


いつもなら先にベッドへ行っても、私が来るまで絶対に漸は眠らない。

もっとも、先にベッドへ行くこと自体、稀だが。


「もしかして、気が抜けちゃったのかな……?」


漸の隣に潜り込み、身を寄せる。

ひょっとして漸はお酒に強いんじゃなく、いつもどこか気を張っているから酔えなかっただけじゃ。

そんな考えが浮かんでくる。


「今度じいちゃんと飲み比べしたら、負けちゃうかもですね」


「んー」


漸の手が伸びてきて私を抱き寄せる。

無意識、なのかな。

でもそういうところ、可愛い。


「おやすみなさい、漸」


眠っているのを確認し、ちゅっと軽く、唇を重ねる。

そういえば自分からキスした相手は、漸が初めてだ。

早く金沢の私たちの家に、帰りたいな……。

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