第9話 嵐の前の‥




「どうしてそうなった?」





俺はダンジョンから帰り家に戻ると明日の為に速攻で寝床についたんだ。

興奮してるから寝れないかと思ったが疲れていたのかすぐに寝てしまっていた。



朝は目覚ましが鳴る前に起きてしまうぐらいだったが、その後身支度を整えるとダンジョンに籠る為の準備をして1週間分は有に足りる程の食料や消耗品を購入し昨日の武者ゴブリンの巣があった場所へと戻っていった。



準備するのにそう時間は掛かっていない。お昼前には辿り着いた訳だが‥‥




「グギョオオオオオ!!!!」


「ぐぎょおぎょ!!」


「ぐきょぐぎょ!!!」





目の前には昨日別れた武者ゴブリンシャーマン、武者ゴブリン2体いると思っていた。なのに目の前にいたのは‥




「あれ?目の前にBランクの【ゴブリン侍】2体とAランクの【ゴブリン将軍】に似たようなのいるんだけどどういうこと?それにゴブリン将軍の片腕無いし。」



テイムしてるモンスターは回線のような物で繋がってる感覚があるので目の前の3体は昨日俺が置いていったシャーマと武者ゴブリンで間違いない。



それは分かっているが見た目も持ってる武器も何もかもが違うんだ。




まず武者ゴブリン2体はゴブリン侍というBランク上位のモンスターになっている。

ゴブリン侍の特徴としてゆったりとした無地の着物を着ている。そして左腰には鞘がありその中には勿論刀が入っている。



「魔鉄のナイフどこいった?」


この2体には護身用にナイフを渡してた筈なのにそれが無くなっている。



「まさかその刀がナイフな訳が無いよな?」



「ぐきょきょ!」


「ぐきょきょ!」



そんな訳があるらしい。



そしてシャーマだが、Aランク上位のモンスターである【ゴブリン将軍】に類似しているモンスターになっている。


ゴブリン将軍は束帯という雛人形の男の人が着てるような着物を着ていて腰には笏を差している。

そして大きさも2メートルは超すほど大きいんだがシャーマの場合は大きさは俺と変わらない位で右手に持ってる物が笏じゃなくて、鉄で作られたような家に飾るような御札を赤子を抱くように持っている。

その御札に書いている文字で炎と書いてるのは分かるがそれ以外は良く分からない。


「そしてなぜシャーマは左腕がないんだ?」



そう、シャーマの左腕が無いのだ。まるで【誰かに切り落とされた】ように肩から先がない。



「‥もしかして人間と戦ったのか?」



シャーマも武者ゴブリンも戦ったような姿ではないが、もしかしたら戦って勝ってそして進化して今の姿になった可能性もある。



ただそうなると沢山の冒険者と戦って打ち勝ったか、強い冒険者を倒したかだとは思うがそれだったらもっと騒がれててもおかしくないよな?



確かAランクチームの【脳筋頭(ノウキンズ)】っていうチームが深層を攻略はしていた筈だけど、コイツラじゃあのチームには勝てないし、高ランクのチームがこんな浅瀬でダンジョンを探索する訳もないはずだ。



「‥‥ボスが進化したか?」



それならば一層を探索する可能性もある。高ランクの冒険者が浅瀬で何かしらのアクシデントがないかの見回りをしても可笑しくはなさそうだ。



このダンジョンのボスが進化したら相当ヤバい事が起きるのは想像がつく。階層も深いし浅瀬では学生も来るようなダンジョンなのだ。

それこそ1階から5階迄は学生がメインで探索している。その浅瀬に武者ゴブリンシャーマンやそれに近しいモンスターなんか出現するようになったら次の日のテレビのニュースは悲惨なことになってるだろう。




「おまえら他の冒険者と戦ったのか?」



「「「ぐきょ!」」」




どうやらそうらしい。






「まじか‥‥」




これがバレたらやばい。冒険者が冒険者を殺してしまったんだ。それも何の罪もない一般の、しかも高ランクの冒険者をだ。



「おまえら良く勝てたな‥‥」



ノウキンズは有名なので動画サイトにも上がってるが全員が身体強化系のゴリゴリマッチョな漢達だった。刃物も鋼鉄の肌で弾き返すような変態動画は一時期バズっていて、ドラゴンのブレスも耐えたような猛者だった筈だが‥‥



「デバフ攻撃に弱かったとしてもCランクモンスターに殺られないよな?」



そう。ダンジョンで仮に寝てたとしてもCランク程度のモンスターに負けるようなチームじゃない。



「‥考えても分からないな。それよりもこれからどうするかの方が大事だ。」




まずはバレちゃいけないのは第一前提であり、もしかすると別の要因で‥‥いや、冒険者とは戦ったらしいから最悪1人は俺のテイムモンスターが倒してしまってるな。


そうなるとどんな冒険者を倒したのかをダンジョンから出て調べたい気持ちに駆られるがそれは悪手だ。


俺はダンジョンに籠る為に準備をしてそしてこのダンジョンの20階層までの攻略情報を国公認の情報屋から買ったばかりだ。



意気揚々とソロの冒険者が攻略しに行ってすぐにダンジョンから出てきて行方不明の冒険者について調べるとか明らかに怪しすぎる。



「気にはなるけど、このまま最初の予定通りダンジョンを攻略しよう。」




色々と考えたがこのまま何も知らない体でダンジョン攻略をしてる方が良さそうだよな?



「‥ただシャーマと侍ゴブリン1体は【戻す】か。」




流石に侍ゴブリン2体、そしてゴブリン将軍を引き連れたテイマーは注目を浴びてしまう。それにゴブリン将軍に似てるだけでシャーマは別の派生先に進化してるようだし。


自慢じゃないがモンスターについては誰よりも詳しい自負がある。それこそこのダンジョンに生息するモンスター、そしてその進化した際に派生する可能性のあるモンスターの情報は分かっていたと思った。



「シャーマ?お前は一体何のモンスターなんだ?」



「グググおおー!!!」



シャーマが新種だとしても1年に新種モンスターは数十種類と見つかっているので、ゴブリン種なら尚更おかしくない。武者ゴブリン系統からの派生で色々とモンスターを進化させて探してみるのも一興だ。



「‥ただ何言ってるか分からないんだよなあ‥はぁ」




もしかしたら俺はもう昔のチームの奴等とは冒険出来ないかもしれない。なんせ俺が罪もない人を殺したと言っても良い状況なんだ。




「はぁ‥コイツらのステータスが分かればもう少し考察できるけど鑑定紙は高いから使いたくないんだよな‥」


鑑定系のスキルを持ってない奴らの御用達。【鑑定紙】


鑑定紙は対象のステータスが分かる優れものではあるんだが、これが1枚10万円もするのだ。


俺が鑑定紙を作ることも出来るが、鑑定紙は鑑定スキルを持ってる奴がいないと作れない。そして今手持ちの鑑定紙も数が心許ない。



「‥シャーマだけ見てみるか?」



それでも現状を考察する為にはステータスを見たら分かる事があるかもしれない。




「まぁまだ5枚はあるし‥シャーマ鑑定!」



もったいないと思ってしまうが鑑定紙を使ってシャーマのステータスを確認した。





「これは予想外だわ。」




そしてステータスを確認した俺は顔から血の気が引いていくの感じながら自然と空を見上げてしまった。





この瞬間からが本当に俺の人生の転機だったんだ。











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