第19話 彼女のスマホを覗いてしまいました

 みちるとふたりで布団の上でゴロゴロして時間を過ごす。たまに指と指を絡みあわせたりなんかして、凄く幸せだ。


「ねぇ~」

「うん?」

「優斗はあたしのどこが好きっ?」


 不安そうな表情でそう聞いてくるみちるにいつも通りの返事をする。


「性格も仕草も顔も全部好きだよ!!」


 そしたら、みちるは嬉しそうな表情を浮かべながら甘えてくるんだ。


「そういえばお腹すいたね~」

「確かに。俺、なんか買って来ようか?」


 みちると連絡が取れなくなってからショックで飯なんて食べてなかった。でも、またみちると一緒に居られるんだって分かると安心して腹が減ってくる。


「いいよ。 優斗はゆっくりしてて!

 あたしが買いに行ってくるから~!!」


 そう言いながら、メイクを直しているみちるを微笑ましい気持ちで眺めた。


「じゃー! 行って来るね」


 そう言って玄関から出て行くみちるを見送ると、部屋の掃除を始めた。


 ブーブーブー

 突然バイブの音が鳴り響いて、音がした方向に視線を移すとガラステーブルの上でみちるの携帯電話が震えている。


 みちるが携帯を忘れるなんて珍しいななんて、思いながら携帯に手を伸ばすと【メール受信28件】の文字が目に入った。


 いつもだったら、迷惑メールかなんかかな?

 なんて思うだろうが、今はそうは思えない。


 震える携帯を横目で見ながら、脳裏を横切ったのは、みちるがついこの間まで付き合っていたという男の存在。


 携帯を見たらいけない事くらい分かっている。でも、″見ない″という選択を取れるくらい俺は強くない。

 それに、知りたい事が多すぎるんだ。


 みちるの男関係。

 本当に前の仕事をやめているのか。


 そして__

 みちるが俺の事をどう思っているのか__


 様々な疑問が頭の中でぐるぐると駆け巡る。


 みちるの携帯を手に取ると、まずはメール受信を確認してみる事にした。


 迷惑メールの中にポツポツと女の名前らしき名前は有るが、男の名前は見当たらない。

 何となく【ゆうこ】という名前のメールを開くと、


『ちゃんと、マンションにいるかー?

 今すぐみちるに会いたいよ』


 と、書かれたメール。これ、男だろ。


 他にも様々なメールを確認すると、『今から会える?』だの『みちるちゃん、めちゃくちゃ可愛い。ネットでみちるちゃんみたいな可愛い子に会ったの初めて』だのの、訳わからないメールが大量に来ている。


 ネット?

 もしかして、未だに出会い系とかSNSで男と会ってるのか?


 なんて、マイナスな思考回路で頭の中が埋め尽くされていく。

 意味が分からない。

 俺はなんなんだ?


 頭の中が研ぎ澄まされたような感覚に陥り、無我夢中でみちるの携帯を弄り続けた。そういえば、みちるは結構頻繁に携帯を弄くっている。あれは、男とメールをしていたのか?


 自分の妄想で気が狂いそうになりながらも、送信BOXも確認する。まるで、パパ活でもしているかのようなメール。男と会ってる事が確実に分かるようなメール。


 そして__

 俺の事をストーカー扱いしている内容のメール。なんなんだ?


 見なければ良かった……


 そう思いながら茫然としていると、玄関のドアが開いた音がして、コンビニの袋をぶら下げたみちるを視界に捉えた。


「優斗~! ただいま!!スーパーに行こうと思ったんだけどね、面倒くさくなっちゃってコンビニ弁当にしちゃったー!!」


 いつもと変わる事なく、呑気に喋っているみちるに対して苛立ちが募る。


「みちる。 携帯忘れてたよ」


 だから、わざとらしくそんな事を言って、みちるの表情を伺った。


 なのに__


 みちるはにこにこしながら、コンビニの袋から弁当を取り出すとテーブルの上に並べている。


「だねー。 とりあえずご飯食べようか?」


 メールの事をみちるに問いただしたい。

 どういう事なのか、全てを説明して欲しい……


 でもさ。もし、そんな事を聞いたら……

 みちるがまた居なくなってしまうような気がして怖いんだ。だいたい、あれは俺とよりを戻す前のメールな訳で、今じゃない。


 そんな、考えで自分をひたすら宥める事しか出来ない。でも、メールの内容を思い出すと胸のムカムカが止まらない。それでも、みちるに嫌われるのが怖くて知らんぷりをしている自分が情けない。


 でも、これ以上裏切られるのも嫌なんだよ。


 だから、あと一回だけ。

 あと一回だけ、信じてみよう。


 今から一週間後にみちるの携帯をまた覗い て、まだああいう内容のメールをやり取りしていたら、別れる事をしっかり考えよう。

 そう決めて、今日見た事をそっと胸の中に しまい込んだ。

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