第18話 彼女を諦めます。いや諦めません
あれから、何度もみちるにメールと電話をしたが返事が帰って来る事は無かった。メールだけでも100件くらいは送ったと思うよ。
余りに一方的に連絡が取れなくなったのが悔しくてさ、それなりに酷い内容のメールや罵声のメールも送ったりもした。
そんな自分がバカみたいで……、今やっと落ち着きを取り戻し始めた所だ。
少しでもいいから、ちゃんと話したい__
それすらも叶わぬまま、時間だけが過ぎて行く。
こんな事なら、彼女が出来る幸せなんて、誰かと一緒に居れる幸せなんて、知らない方が良かったと思ったりもした。
それでも、誰かと一緒居る幸せ。
安心感を知ってしまうと、それを求めてしまう。ひとりでも大丈夫だった頃に戻りたいと願ながら、毎日を過ごした。
ひとりじゃ大丈夫じゃなくても、ひとりでいるしかない。そんな、日々を過ごすにつれ、一人でいる事を受け入れ始める自分がいる。
ゲームをしたり、部屋でぼーっとしたりの気楽な生活を続けた。
他人に気を使う事も無い、自由奔放な生活。
それは、自分にとって楽な生活なはずなのに__
守る人が居ない生活は虚しくて……、物足りない。
でも、そんな生活でも生きる事に問題は無い。
諦めよう…
諦めよう…
何度も自分にそう言い聞かせて毎日を過ごしていた。
諦めようとすれば幸せだった日々を思い出して、寂しさだけが募っていく。
毎日の寂しさを誤魔化す為だけにゲームに没頭し、それを誤魔化せなくなった時にみちるに一方的にメールを送る。
そんな女々しい日々を過ごしていた。
『優斗~!! 久しぶり~♪』
みちるから、一通のメールが届いたのはそんな時だった。今更、メールなんてしてきて何なんだよ!!
そう、思ったけど……。
もう一方では飼い主の帰りを待ちわびて尻尾をふる犬みたいに、みちるからのメールで大喜びしている自分がいる。
みちるからメールを貰えて嬉しいんだよ。
でも__
【他の男と同棲していた癖に………】
そんな言葉が頭の中を横ぎってしまう。本当は自分の不満を今すぐにでもみちるにぶつけたい。でもさ、そんな事をしてまたみちると音信不通になる事が怖くて、『元気だよ』とだけメールを打ち返した。
『なんか、メールそっけなくない?つか、今暇?!(o^^o)』
…………
…………
みちるの奴、何考えてるんだ?
自分がした事を理解してんのか?
こんなにも堂々とメールをしてくる神経を疑ってしまう……
そう思いながらも、みちるに会いたい気持ちに負けてしまった。
『暇だよ』
『じゃあー♪ 今から遊ぼうよ??』
はぁ……。
お前、彼氏いるだろ?何で、そんなに軽々しく″遊ぼうよ″なんて言えるんだよ……。
そうは思うけど、俺はみちるに会いたくて会いたくてたまらなかったんだ。でも、俺を裏切ったみちるが許せないって気持ちだってあるから、つい意地悪なメールをしてしまう。
『遊んでもいーけど、彼氏に怒られるんじゃねーの?』
″彼氏なんていないよ″って言って欲しい。
もう、いっそうの事……、母親が目撃したみちるが別人だったら、楽なのに……。
そう思うけど、帰って来たメールは期待外れのモノだった。
『彼氏ー? んー。 大丈夫だよ。とりあえず、暇だから遊ぼ!!!』
みちるに対して不信感を持ちながらも、『いいよ』と返信してしまう自分がいる。
でも、単純になんて喜べない。
俺と付き合っていた時も、こうやって他の男と遊んでいたのだろうか?
そんな風に考えてしまって苛立ちが募っていく。
こんな女__
簡単に見切りを付けてしまえたら楽なのに、それすら出来ない情けない自分を恥じながら出掛ける準備を始めた。
「あれ~。 優斗どっか出掛けるのー?」
「……」
そんな俺を嬉しそうな表情で見ている母親に対し後ろめたさが募る。
「最近、落ち込んで部屋から出ないから心配してたのよ! でも、良かった~」
「今から、みちるに会いに行く……」
そう言うと、母親は戸惑ったような表情を浮かべている。それが、普通の反応なのだろう……。
もしかしたら、みちるに会う事を止められるかも知れない。それでも、自分を心配してくれている母親には本当の事を言いたかった。
「優斗はみちるちゃんが好きなの?」
「うん。 好き……」
あんな裏切り方をされても、みちるの事が忘れられなくてしょっちゅう思い出して苦しかった。
「やっぱりね~。でも、優斗の事を裏切った事が許せないのよ……。
でも、どうせ私が反対しても優斗はみちるちゃんに会いに行くでしょ?」
多分、そうだろうな……
そんな事を考えながら、こくりと頷いた。
「それに、優斗が泣きそうな顔してるの見たくないし、みちるちゃんが本当に悪い子だとも思えないのよ。
だから、仲直りしたら家に連れて来てくれる?」
自分の母親ながら、甘い考えだと思う。
でも、″みちるちゃんが本当に悪い子だとも思えない″の言葉に救われた。
だから、「分かった」とだけ返事をしてみちるのアパートに向かった。
少しでも早く会いたくて、タクシーを拾うとみちるのアパートの場所を告げた。
実家に戻ってから、何ヶ月も何年も経った訳じゃないけど、みちるのアパートに向かう道のりが懐かしく感じたのは″みちるに会いたかったから″だろう。
また、みちるに会う事が出来るのならば、文句の一言くらいいってやろうと思ってた時もあるけど、実際に今から会うとなると嬉しさしかない。
懐かしいアパートの前でタクシーが泊まると料金を払って、タクシーから降りる。そして、みちるの部屋のドアをノックした。
ちょっと前まではここに一緒に住んでいて、この部屋に入るのにノックなんてする必要無かったんだよな。
そう考えたら、悲しい気持ちと、新鮮さを感じる。変な気分だ。
玄関のドアがゆっくりと開き、みちるが顔を覗かせてにっこりと微笑んだ。
「優斗~。 久しぶり!」
何事も無かったかのように、笑顔で話し掛けて来るみちるを見て色々な疑問が頭の中でぐるぐると渦巻いた。
「久しぶり」
「優斗、元気だったー?
最近さぁ、優斗ずっとゲームに夢中だったでしよ?」
え?
「そ、そうだねー」
「それが、寂しかったんだ~! だから、優斗とは友達に戻りたいの」
気分が落ちていく。そう、俺はみちるとまたやり直せる事を期待しながらここに来たんだ。
″やっぱり、優斗がいい″って……
″やっぱり、優斗が好きだ″って……
言葉を期待していたんだ。
「あのさ……」
「ん?」
「俺が、ゲームをやめたらよりを戻せるのかな?」
冷静に考えたら、俺だけが悪い訳じゃない。
でも、この時は自分が全て悪いような気がしたんだ。みちるに寂しい思いをさせた自分が悪い。そう思う事で自我を保っていたのかも知れない。
「ゲームやめてくれるの?」
小首を少し傾げて、上目使いでそう聞いてくるみちるの仕草が可愛い。ゲームをやめるだけで、みちるが俺を選んでくれるのなら……
「やめるよ!! やめる!!
もう、ゲーム機実家に持って帰ってるから、ここには持って来ない」
「優斗……。 ありがとう。
でもね、ゲームをやめる必要はないよ」
へっ?
だって、俺がゲームばっかりしてたから寂しくて他の男に走ったって事なんだよな……。
不思議に思っている俺に対して、みちるは話続ける。
「だってさぁ、趣味って大事でしよ?
だから、たまにする分は構わないよ。
だけどさぁ、あたしの相手もちゃんとしてね!」
みちると別れるのは嫌だったけど、ゲームも捨てがたい俺からしたら、みちるの言葉は最高の言葉だった。
だから、みちるは″ちゃんと俺の事を考えてくれている″
″俺の趣味も理解してくれている″
″でも、ただ俺がゲームに夢中になりすぎる事が嫌だったんだ″
そう、思っていた。
でもさ__
それは違ったんだ__
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