第17話 彼女に彼氏が出来たみたいです
みちるが、パパ活を辞めてから1ヶ月近くが過ぎた。みちるはその代わりに夜の仕事を始めたみたいだ。
俺はというと、知り合いに紹介されたパチンコ店で働いている。
最初の頃は俺が仕事をする事を気乗りしていなかったみちるも、パチンコ店に来たらすぐに俺の様子を確認出来るから安心したのだろう。最近は不安そうな素振りは見せない。
ただ、仕事場の同僚と飲みに行ったりするのだけは許せないみたいだが、酒なんてほとんど飲まない俺からしたら、どうでもいい事だ。
最近の俺の生活は仕事に行って、家にいる時はオンラインゲーム。その、単調な繰り返しだ。
みちるが突然アパートに帰って来なくなったのは、そんな時だった。
どーせ、友達と遊んでるんだろうって気持ちが30パーセント。
オンラインゲームが楽しくて夢中になってしまったという事実が70パーセント。
ぶっちゃけて俺達の同棲生活は、みちるがパパ活を辞めてからも変わる事は無かったんだ。
相変わらず、ゴミだらけの部屋は前以上にパワーアップしているし……
飯なんてめったに作らない……
極めつけは、皿を使ったら使ったままで台所は悪臭をはなっている。
でも、俺も仕事を始めたという強味があるし、オンラインゲームに時間を費やしているから前みたいにはこまめに片付けをする事はしない。
その結果……
部屋は軽いゴミ屋敷状態だ。
言い訳をすれば、そんな環境に疲れていたのかも知れない。
オンラインゲームは俺にとって魅力的な物だ。
別に友達がいない訳じゃない。それでも、ネットに繋げばいつでもゲーム内での仲の良い友達とチャット出来るという事が楽しかった。
相手は顔も知らないような相手。
でも、それが凄く身近な人に感じてしまうんだ。話したい時に喋って、大好きなゲームを一緒に楽しむ。
その時間はリアルなんかより、楽しい。
だから、みちるが帰って来なくなってからもゲームに没頭し続けた。
もしも、オンラインゲームが無かったら……。 俺は今頃、悩んで悩んで気が狂いそうになっていただろう。そう考えたら、俺はオンラインゲームに救われたのかも知れない……
でも、それはただの現実逃避にしか過ぎなくて、結局は逃げるだけの手段。そうは理解していても、どんどんゲームの世界にのめり込んでしまう。
ゲームの中でのレア素材。
やればやるほど強くなるキャラクター。
もうさ、仕事に行く事すら煩わしいよ。
だって、ゲームの世界にいたら楽しい事だらけだ……、でも、現実は過酷。
もう、ずっとゲームの世界にいたい
ゲームの世界が自分の世界。
ゲームの世界が一番落ち着く。
本気でそう思う。
俺は今までの出来事のせいで疲れているだけなんだよ。どうせ、みちるも俺が仕事をしない事を望んでたじゃないか。
ゲームがしたい。だから、そんな事を言い訳に自分を宥めて仕事を辞める事にした。
その日は徹夜でゲームを楽しんで、朝方に眠りに付いた。
昼になるとゲームしたさに目が覚める。携帯の液晶を確認すると、仕事場からの着信かがある。でも、そんな事は見ない振りしてゲームの電源を入れる。
ゲームにインすると次第に気持ちが落ち着き、楽しい気分になってくる。ここ(ゲームの世界)が、俺にとっての落ち着く場所なんだって本気で思うよ。
だから、ただひたすらに自分の世界に引きこもり続けた。
ガチャガチャとコントローラーを弄ぶ音とゲームのBGMだけが室内に響き渡る。
これでいいんだ__
そう、思ってひとりで声を上げて笑っていると携帯の着信音が鳴り響いた。
「誰だろう…」
もしかして、みちるなのかな……?
そんな希望に胸を膨らませながら液晶を確認すると、電話の相手は母親だ。
『もしもし。どうしたの?』
『優斗ー。 あんた、みちるちゃんと別れたの?』
何で、そんな事を聞いてくる?
『いや、別れてはいないけど……』
『さっき、みなと買い物してたらみちるちゃんが男の人と買い物してるの見掛けたんだけど……』
みなっていうのは俺の妹だ。それより、みちるが男と買い物をしていたってどういう事だ?
『それって、人違いじゃねーの?』
これ以上、悩みの種なんて要らない。
『確かにみちるちゃんだったよ。て、みちるちゃん部屋にいるの?』
居ないよ__
もう、大分この部屋には戻って来ていない。
でもさ、服とかもそのままだし、どこかに遊びにいっているだけなんだよ……。
『最近、帰ってきてない……』
『なら、一度マンションに戻って来なさい』
母親にそう言われ、マンションに戻る事に決めた。
『分かった…』
上手く現実逃避出来ていたと思っていたのに現実に引き戻された瞬間、涙が溢れ出る。
さっきまではオンラインの世界で楽しめていたのに、みちるの事が気になり初めて最悪の事態ばかりを想像してしまう。
みちるに会わなければ良かった……
って、考えた時もある。
このまま、みちると別れた方が楽なんじゃないかって考えたりもする。
でも、実際別れると考えると寂しくて仕方が無い。
みちるとは別れたくない__
そう考えた瞬間。
みちると一緒にいたという男の存在が気になってしまう。
そいつは一体誰なんだ?
俺は捨てられる?
そう考えたらいてもたってもいられなくて、メールを制作し始める。
『うちの母親がみちるが男と歩いてる所見たらしいんだけど、どういう事?』
『とりあえず、一回電話かメール頂戴よ』
男の癖に情けないと思うけど、みちるとちゃんと話をしたいんだ……。でも、返事がすぐに帰って来る訳も無く、とりあえずはマンションに戻る事にした。
「優斗~! どういう事なの?!って、何泣きそうな顔してんの?」
マンションに帰るなり、母親と妹が心配そうな表情で俺に話し掛けてくる。
心配されている__
そう実感すると、余計に自分が情けなくなってしんどい。
「いや、最近みちるアパートに帰って来てなくて……」
「あー。 多分ね他の男と同棲してるかもね」
…………
……………
他の男と同棲?
有り得ないなんて言い切れない。
でもさ__
「なんで、そう思うの?」
「えとね、みちるちゃん男と一緒に大量の食材を買い込んでたんだよねー。だから、同棲してるのかなって……思ったんだけど……」
大量の食材?
俺と一緒に同棲している時は、めったに飯なんて作らない癖に、他の男には毎日飯を作ってるって事なのか……?
結局は俺なんかより、その男と暮らした方がみちるにとって幸せなんじゃないか。って、思うのにそんな簡単には割り切れなくて嫉妬心が沸々と湧き上がる。
「その男って……、どんな奴だったの?」
聞かない方がいい事くらい分かってるけど、聞かないでいる事なんて出来ない。
それに__
″凄くかっこいい″とか″優斗じゃ足元にも及ばない″って、はっきり言って貰えたら、みちるの事を諦める事が出来るかな?なんて思ったりしたんだ。
「え! なんか普通の人かな?でも、結構年上だったと思うよ……」
結構、年上?
どこで、ソイツと知り合ったんだ?
「教えてくれてありがとう。 俺とりあえず寝るわ」
それだけ言って、自分の部屋に戻るとベッドの上で横になった。勿論、眠れる訳がない。
みちるとちゃんと話がしたい。
頭の中はそれだけだ。
『怒らないから、ちゃんと説明して!』
『とりあえず、ちゃんと話そう』
『いい加減にしろよ!!!』
気が付くと、一方的にみちるにメールを送り続けている。でも、何を送ろうが返事なんて帰って来ない。
何なんだよ……
優斗が大好きって……
優斗が居ないと死んじゃうって……
優斗は運命の人だって……
都合のいい事を、散々口にして要らなくなったらメールすらよこさないのかよ。実際、自殺未遂だってしたくせに。
こんなにも簡単に他の男に乗り換えるのかよ?
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